■「親の人生の半分も知らないな、ということに気がついた」

 立ち上げた劇団も軌道にのり、演劇だけでなく、映画の監督やドラマの脚本、アーティストのミュージックビデオなど「表現」の世界で幅広い活動をしはじめた彼女は30代になってから、「家族」をテーマにした舞台を作りはじめる。

「今回の家族をテーマにした小説も、もともとは舞台だったものを肉付けして、小説にしたんですけど、話を書こうと思ったきっかけは認知症という病気に関心を持ったからなんですね。テレビのニュースとかで認知症の方が行方不明になった、とか、家族が探しています、というのを見ると、その方の人生に思いを馳せてしまう自分がいたんです。そんなことを考えていたら、そういえば、私自身、親の人生の半分も知らないな、ということに気がついた。家族って切っても切れない関係なのに、半分も知らないなんて他人だなぁ、とか考えていたら、家族を描くって、もしかしたら自分と向き合うことかもしれない、と思ったんですよね」

 小説では、認知症の父親がある日、失踪する。非正規雇用でブラブラしている兄と人一倍神経質な姉、そんな姉を支えたいと気を遣って生活する義兄が同居する実家に、末っ子の僕は仕事をやめて帰ってくる。そもそも過去の父の不倫が原因で母が出ていき、家族はバラバラになっていた。兄は「父は自分の意志で愛人のところにいったのかもしれない」と勘繰り警察にもいかず、姉は「私が目を離したせいだ」と自分を責めながら、何も行動を起こさない兄に苛立ちを募らせている。そして、僕は「めんどくさい」という思いを抱えながら、それでも自分の感情と折り合いをつけられずにいる。

「フィクションで書いてはいますが、それでも私は家族というのを自分の家族でしか知らないので、知らず知らずのうちに実体験が作品に投影されていることはありますね。作中のいちごを潰して家族で食べる描写とかはまさにそうです」

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