吹奏楽部の一年生(山下)が、部活動について同級生と電話で話し合っている。自主練習をめぐる考え方の違いから次第に口論になったのち、少し間をおいて二人は校舎屋上で再会し、静かに互いの距離を埋めてゆく――。エピソードそのものは青春期のささやかなひとときを描写した短篇である。しかしこの作品は、乃木坂46の個人PVが発表される際のルーティンを前提にした、トリッキーな仕掛けを忍ばせている。

 冒頭に「side A」と銘打たれたYouTube予告編で公開されているのは、二人の登場人物のうち片側のみを捉えたドラマである。一方、シングルパッケージに個人PV本編として収録されているのは「side B」、つまりもう片方の登場人物のみを追った映像だ。いずれの人物も、演じているのは山下である。

 YouTube予告編ページで示唆されているように、これら二つのドラマは互いに映像内の時制を一致させた作りになっている。どちらか一方のみをドラマとして観賞するとき、姿の見えない他者とのコミュニケーションを演じる、一個人としての山下の姿がそこにはある。そして、双方の映像を同時再生することで、二つの画面上にいる「二人の山下美月」が反発し合い、やがて打ち解け合うさまが立ち現れる。予告編と本編とを重ね合わせることで、この個人PVは始めて完成形となる。

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