主演を務める深川が性格の異なる二役のやりとりを演じるその構造は、のちの山下の個人PVと強く呼応する。もとより、山田は乃木坂46の個人PVにおいて、観る者の錯覚を促すような二者関係をしばしば描いてきた。

 巧みに関係性のミスリードを誘う若月佑美の個人PV「彼女の思い出」(『ハルジオンが咲く頃』収録)や、殺人事件の被疑者となった二人がともに積極的に自分が単独犯であると主張する星野みなみ松村沙友理のペアPV「どちらかが“彼”を殺した」(『太陽ノック』収録)など、乃木坂46の映像作品の発展に随伴してきた山田のフィルモグラフィーは、テイストをさまざまに変えながらも人間関係の描き方に独特の共通性をみせている。

 この点で「山下美月の二重奏」は、ひとりの監督の作家性を振り返る足がかりでもあった。

 2010年代後半、すでに乃木坂46の映像コンテンツが歴史を重ねて充実期に入るなかで、自らのあゆみをたどりメタ的に言及するような作品が必然的に生まれてくる。グループがアイデンティティを確立し、円熟を迎えようとする段階で加入した3期メンバーたちの存在は、個人PVをあらためて解釈し直すクリエイティブの転機をもたらすものでもあった。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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