主演を務める若月の側にスポットを当てれば、青春期の淡いひとときと、その先に拓ける未来とが描かれた、爽やかな小品のようではある。ただし、彼女の未来が可能性にひらかれるほどに、一方で彼女を見守る古書店員の控えめな屈託は静かに影を増してゆく。決して劇的に描かれるわけではないこの二者の対照こそが、本作の肝である。

 かつて文章で身を立てようとしたが断念し、現在に至る古書店員はどこかためらいがちに、ときに言い訳めいた振る舞いで若月に接する。進学を報告しに来た若月に向けて語る言葉も、やはり半端なままに終わり、大切な何かを到底伝えきれない。この煮えきらなさの背後に暗示されるのは、これから瞬く間に自分の世界を広げてゆくであろう若月と、かつて夢想した理想の未来を手放し、同じ場所に留まり続け、引け目を感じているような古書店員とのやるせないコントラストである。

 ひたむきに受験生活を送り、大学合格を手にした彼女の期待と不安の入り交じる振る舞いは、正しく眩しい。そして、若月が演じるまっとうな輝かしさゆえに、二人の間の対照はいやがうえにも引き立ち、別れ際の約束のゆくえもおぼつかない。だからこそ、ラストにパッチワークされた古書店での「記憶」は、美しくもありまた残酷でもある。

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