■思いが成就しない者たちのドラマを繰り返し描く

 翌2015年、12枚目シングル『太陽ノック』収録のペアPV「結婚式/ロマンス」に出演した若月は、今度は思いを伝えられない者の側を演じることになる。若月とペアを組んだのは、近年では今泉力哉監督作品などで強い存在感をみせる深川麻衣だった。


https://www.youtube.com/watch?v=627ahOmY5iI
(※深川麻衣・若月佑美ペアPV「結婚式/ロマンス」予告編)

 知人の結婚披露宴で流すお祝いコメントを撮影している二人。ただし、冒頭に「明日、私の好きな人が結婚する。」という言葉が示されていることで、お祝いコメントを収録していること(=披露宴には出席しないこと)が、複雑な意味をもって立ち現れてくる。

 物語前半では、物憂げに思案する深川と、横に寄り添う若月というバランスで進行するが、後半になると今度は若月の秘めた感情が漏れ出す。やがて、冒頭の言葉をわずかに改変した文言が表示されることで、二人が互いに見守り合うようなこのストーリーの輪郭が浮上する――。

 ほぼ全編、室内でのダイアローグで進むこのショートドラマでは、深川と若月という二人の俳優が、乃木坂46在籍時にすでに備えていた表現力をあらためて確認できる。あくまで静的な筆致で描かれるからこそ、報われなさを内に秘め、あるいは噛み殺すような人物たちの表情の移ろいは印象深い。

 頃安祐良は、思いが成就しない者たちのドラマを繰り返し、乃木坂46のメンバーたちに託してきた作家である。そしてそれらの作品群は、「演じる」者を育む場としての個人PVを、豊かな土壌にするための一助となってきた。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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