とはいえ、主人公にとって恋愛や結婚はあくまで他人事としてある。彼女のモノローグが捉えようとしているのは彼女の父母、かつて恋愛を経てこの家で結婚生活を送ってきたであろう親の姿だ。

 3日前に父を亡くしたばかりの主人公の語りは、父と自分との距離感を静かに顧みたのち、慕わしい者を失った直後の母の様子を描写し、やがて二人の結婚生活を最も身近で見てきた者としての述懐へと続く。

 必ずしも仲睦まじいわけではない二人の姿、そして夫を失い悲嘆に暮れる母の姿。主人公の立場から断片的に垣間見える二人の関係は、さほどわかりやすいものではない。

 もとより、今泉が描く親密な者同士の関係は常に、世間的なわかりやすさとは異なる繊細さを持っている。齋藤演じる主人公の視線は、今泉作品にしばしば現れる人々を、一番近い場所にいる部外者として俯瞰するものなのかもしれない。

 ただし、本来ならば今泉作品の主役だったかもしれない二者の関係は、夫の死によって二度と見ることのできないものになった。がらんとした一軒家は、その余韻だけを残して建つ。

 そして、その中で一人、いくぶん醒めたように思索をめぐらせる主人公の佇まいは、齋藤飛鳥という演者の特性ともどことなく合致する。のちに俳優としてもキャリアを重ねていく齋藤の、デビュー3年目の印象深い一作である。

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