■10月29日以降も愛おしい人生が続いていくはずだ

 物語は橋本が暮らす部屋から始まる。橋本が目覚めると10月28日の朝。彼女はいつものようにベッドから起き上がり、通勤途中で乃木坂46の新曲について口にする通行人とすれ違い、勤め先の食堂で働き、やがて夜の8時を迎えると突然倒れて死んでしまう。そして目覚めると、また10月28日の朝。いつものようにベッドから起き上がり、通勤途中で乃木坂46の新曲について口にする通行人とすれ違い――。

 否応なくタイムループされる日々を、橋本はうんざりしながら繰り返す。ループの中で幾度となく反復される職場での会話や来客の注文に対して、橋本は先回りしてリアクションを変えてみたりはするものの、やはり毎回定刻に彼女は死を迎え、そして目覚めるといつもの10月28日の朝に連れ戻されている。ドラマは、とあるきっかけでこの円環が少しずつ揺らぎ、やがて出口にたどりつくまでが描かれる。

 あらためて演者としての橋本奈々未の存在感を確認できる本作だが、後半の展開はまた、主人公が能動的にアクションを起こして模索を重ねることで未来を拓くという、きわめて正統的なストーリーにもなっている。彼女は研鑽の末にひとつの達成を手にして、新たな朝を迎える。過ぎ去ってしまえば、同じ場所に留まっていつまでも続くかのように思われたタイムループの日々も、その後味はどこか懐かしい。

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