■作品に封じ込められた記憶を、いまの時点で見るということ

 ただし、彼の個人PV史を振り返ると初期の作品の内にも、広々としたロケーションの力を最大限に活かした映像を見つけることができる。それが3枚目シングル『走れ!Bicycle』に収録された西野七瀬主演の作品である。

https://www.youtube.com/watch?v=DpVQMOpvxd4
(※西野七瀬個人PV「沖縄」予告編)

『走れ!Bicycle』収録の個人PVでは“旅”が全作品の統一テーマに据えられ、必然的に撮影地の景観を印象的に捉えた作品が多い。その中でも、中村が監督した西野七瀬の個人PVでは、開けた空や海が画角に収まるカットが多く採用され、沖縄の広大な自然の魅力をごくシンプルに伝える一作になっている。

 夏空の下、海へ続く草原を歩き、砂浜に足を浸し、手にしたカメラで風景を撮り続ける西野。大自然をバックにしたイメージカットを繋いだ本作だが、この個人PVには旅情のほかにもう一つのテーマがある。それは、過ぎゆく時間を記憶しようとする志向である。このとき、西野が持つカメラは記憶を留めるための象徴的存在としてある。

 作品が後半へと向かうにつれ、西野によるナレーションは情景描写から、「記憶」をめぐる内省へと移ってゆく。やがて、連続したシャッター音とともに、西野が語り出すのは「いつの日か、それらを振り返る」とき、すなわちまだ見ぬ未来への想像である。

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