乃木坂46「すべての犬は天国へ行く」「嫌われ松子の一生」「サムのこと」…ナイロン100℃との関係性を探る【乃木坂46「個人PVという実験場」第16回1/5】の画像
※画像は乃木坂46『僕は僕を好きになる (通常盤) (特典なし)』より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第16回 ナイロン100℃とのリンク 1/5

■乃木坂46の演劇志向を受け継いだ「すべての犬は天国へ行く」

 乃木坂46の動画配信サービス「のぎ動画」で先週1月29日から配信が始まったのが、舞台公演「すべての犬は天国へ行く」(2015年・AiiA 2.5 Theater Tokyo)である。

「演じる」者たちを育む場としての個人PVやMVに着目する本連載だが、映像作品と並行して乃木坂46がデビュー以来、注力してきたのが舞台演劇だ。2012年から行なわれてきた実験的な演劇企画「16人のプリンシパル」シリーズが2014年で一旦幕を閉じたのち、乃木坂46の演劇志向にとってひとつの画期となった公演が、翌2015年の「すべての犬は天国へ行く」だった。

 ネルケプランニングの松田誠が乃木坂46に提案したというこの戯曲は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)主宰の劇団・ナイロン100℃が2001年に上演したものだ。救いのない状況に置かれた人々をシリアスに描きながら、同時にコメディとして成立させた傑作である。

 居酒屋兼売春宿を舞台に西部劇風の世界設定で描かれたこの作品に登場するのは、男性が支配する社会の中で、周縁に置かれ続けてきた女性たちである。

 男性が自分勝手な争いに明け暮れて死に絶えたのち、もはや彼女たちを縛る者などいなくなったはずの世界でも、男性優位社会の諸々を内面化してきた登場人物たちは、かつての慣習をなぞりながら生きることしかできず、やがて己を蝕んでいくその慣習に呑まれるようにして自滅を迎えていく。この劇内世界に登場する者たちは、生者も死者もみな愚かしく薄ら寒く、どこまでも哀しい。

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