こうした登場人物たちの物語が切実さをもつのは、本作が現実世界の抱え続ける歪みと相通じているためだ。また、社会全体のもつ旧弊をそのまま温存し再生産しがちなジャンルこそが、他ならぬ「アイドル」である。

 それだけに、乃木坂46版「すべての犬は天国へ行く」は、その上演自体が自らに、あるいは観る者たちに向けた苦い批評としての機能を持つ。

 他方で、この公演は乃木坂46が演技者としての視野を開拓するうえで大きなターニングポイントでもあった。いくつもの意味で、何度でも振り返られるべき参照点として本公演はある。

■乃木坂46の演劇・映像作品に多く関わるナイロン100℃

 ところで、「すべての犬は天国へ行く」を生んだナイロン100℃は、はからずも乃木坂46のコンテンツとの接点が多い。

 乃木坂46は「すべての犬は天国へ行く」に続く演劇企画として2016年に「嫌われ松子の一生」「墓場、女子高生」を上演するが、「嫌われ松子の一生」に出演した藤田秀世や、「墓場、女子高生」に出演したみのすけはそれぞれナイロン100℃の俳優である。あるいは乃木坂46のデビュー2年目、2013年の「16人のプリンシパルdeux」で脚本を担当したのは、ナイロン100℃に所属する喜安浩平だった。

 また、本連載昨年9月8日更新分(https://taishu.jp/articles/-/81886)で、乃木坂46の映像コンテンツの新展開のひとつとして、4期メンバーが主演するdTVのドラマ「サムのこと」にふれた。同ドラマの第4話、金川紗耶演じるスミのエピソードのキーパーソンとなる占い師を演じたのは、やはりナイロン100℃の俳優で、かつて2001年上演のオリジナル版「すべての犬は天国へ行く」で不良のガスを演じた村岡希美である(乃木坂46版のガスは斉藤優里が演じている)。

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