■夜のロケ車でかつての日々に思いを馳せる

 一方で、すでにキャリアを積んだ立場の演者が「架空の前日譚」を演じるとき、そこにはまた別の味わいが生まれる。17枚目シングル『インフルエンサー』に収められた衛藤美彩の個人PV「アナタハ私ノ夢」(監督:平井健太)は、芸能の仕事が決まり東京に旅立つ主人公(衛藤)が、友人(北川原志於)に記念写真を撮ってもらう日の一コマを描いたドラマ型作品である。

https://www.youtube.com/watch?v=Q9vsgZsyFg4
(※衛藤美彩個人PV「アナタハ私ノ夢」予告編)

 芸能の世界に入る直前の自分自身の姿を留めておくため、衛藤演じる主人公は友人に自らのポートレート撮影を依頼する。もちろんそれは、直接的には写真に残すことによって、東京行き直前の自身の姿を視覚的に記録することを意味する。けれどもまた、旧友とプライベートな立場で撮る/撮られる時間を作ることで、二人の尊い関係を心のうちに記憶するために、このささやかな時間はある。

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