体裁上はテーマに沿って、橋本が苦手だという「自撮り」の克服が掲げられ、そのために「橋本自身が監督となって個人PVを撮る」ことがスタッフから提案される。

 しかし、この冒頭のシーンがすでに、フェイクドキュメンタリー的なタッチの虚構である。そして次のシーンからは、橋本が自撮りとはまた別の「苦手」を克服する、ややオフビートかつファンタジックな空気感のドラマが展開していく。

 やがて、橋本自身が監督・脚本にクレジットされたこの作品は、ひとつの達成をもって幕を閉じるが、テーマであるはずの「苦手克服」はこの作品にとってはストーリーのきっかけを作るためのものでしかない。前作に続いて橋本の個人PVはやはり、あてがわれたテーマをメタ的に捉え直し、フェーズの違う景色を見せる作品だった。

 ここでみた二つの統一テーマは、本来ならばメンバーの「素」にフォーカスするため、言ってみれば虚実の「実」とされるであろう部分を捉えるための枠組みである。しかし、橋本が主演した作品はいずれも、そのテーマの前提を疑うような形で、むしろ明確なフィクションに昇華している。

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