■アイドルという職業的性格そのものを物語る

 一方でこのMVは、アイドルの職業的性格を巧みに物語ってみせるものでもある。アイドルはいくつもの異なる位相のキャラクター、アイコン、登場人物を次々に上演し続けることをその職能とする。

 さまざまなジャンルへ越境しながらなにがしかを演じ続けることは、わかりやすく特定の一分野に専従する仕事とは性格が異なるだけに、そのプロフェッショナル性が認知されにくくもある。

 プロフェッショナルとしてのアイドルであるとは、具体的にどのようなことなのか。それを視覚的に解き明かすものとして、この5分強の映像には新鮮な説得力がある。

 グループの矜持と希望を感じさせるラストは、この職能を肯定するような晴れやかさをたたえている。アイドルという職業が必ずしも理解されやすいものではないからこそ、このMVの志向には意義がある。

 作り手の意図がどこにあるにせよ、このMVには冷ややかな怖さとアイドルという職能への誇らしさとが同居している。そして、その対照的な二側面のいずれかだけに拘泥しても、「アイドル」という職の複雑さを見落とすことになる。

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