■アイドルが使える最大の魔法
そのまま突入したライブでの桐原さんは、トークと正反対で、自分をしばる窮屈なものがない音楽の世界であらゆる感情が全開放されていました。そのライブがあまりにも楽しそうでますます泣いてしまったことは言うまでもありません。
なぜだか彼女が歌う姿を見ていると、わたしの苦しい気持ちを半分うけとめてもらったような気がしました。それは少しだけ解放に似ていました。では、なにから解放してくれたのかと考えると、それは「しがらみ」かなと思います。
誰かにくらべてできがわるい、誰かにくらべてうまく話せない、誰かにくらべて努力がたりない、誰かにくらべて……と、永久に自分を減点しつづけていく自己嫌悪ゲームから切り離してくれる。
アイドルは世界と自分の比較をストップさせてくれるし、わたし自身がエサをあげて育てつづけてしまう自己嫌悪を、「それはいったん横においておこうよ」と、肩を軽やかに叩いてもくれます。アイドルが歌っている時間だけは、「あなた」と「わたし」で完結するとてもシンプルな世界に行くことができるのです。それはアイドルが使える最大の魔法です。
その日の配信は、まさにそれでした。
ところで、桐原ユリさんのTwitterのbioには「アイドルに憧れてライブを始める」と書いてあるのですが、この魔法が使えるということはつまり……もう完璧にアイドルなのでは? と思うばかりです。
愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル
- 第1回「特典券偽造問題」を聞いて思ったこと成宮アイコ「特典券偽造問題」を聞いて思ったこと 【連載第1回】
- 第2回 アイドルオタクとひきこもりと服飾学生が一緒に泣いた日成宮アイコ アイドルオタクとひきこもりと服飾学生が一緒に泣いた日【連載第2回】
- 第3回 「アイドルを応援『してあげている』なんて思わないし、コンビニやファミレスでも『こっちは客だぞ』なんて思わない」成宮アイコ「アイドルを応援『してあげている』なんて思わないし、コンビニやファミレスでも『こっちは客だぞ』なんて思わない」【連載第3回】
- 第4回 「力のない笑顔を、誰もしなくていいように」成宮アイコ「力のない笑顔を、誰もしなくていいように」【連載第4回】
- 第5回 「彼女たちが“平和であろうよ”と歌う意味」成宮アイコ「彼女たちが“平和であろうよ”と歌う意味」【連載第5回】
- 第6回 「青春がなかったわたしに、“青春の喪失感”を感じさせてくれたtipToe.」成宮アイコ「青春がなかったわたしに、“青春の喪失感”を感じさせてくれたtipToe.」【連載第6回】
- 第7回 「ひとつの目標の終わり、次のわたしのはじまり」成宮アイコ「アイドルの活動終了と、アイドルに尊くしてもらった人生のこと」【連載第7回】
- 第8回 「アイドルすら聴けなくなってしまったコロナ鬱から引き戻してくれたアイドル・RAY」成宮アイコ「アイドルすら聴けなくなってしまったコロナ鬱から引き戻してくれたアイドル・RAY」【連載第8回】
- 第9回 アイドルが使えるシンプルな魔法、桐原ユリさんの配信が開放してくれた「しがらみ」。アイドルが使えるシンプルな魔法、桐原ユリさんの配信が開放してくれた「しがらみ」。【連載第9回】
- 第10回 「アイドルがくれる"大丈夫になる瞬間”と、cana÷biss・りっすんさんが放った最強ワード」成宮アイコ「アイドルがくれる"大丈夫になる瞬間”と、cana÷biss・りっすんさんが放った最強ワード」
「成宮アイコ「愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル」」最新記事