彼女がふれる都会の寒々しさもテンポラリーな人情味も、やはり誰もがイメージしやすい繁華街の風景である。それだけに「住みし都」は、見る者それぞれがどこかで経験したようなものとして受容しやすい情景を切り取ったものといえる。

 そしてその人物像は、主演する和田まあや自身とも当然のごとく重なる。買い物のついでに魚屋の店員とささやかなコミュニケーションを交わす和田の姿は、彼女が演じる虚構のキャラクターとして以上に、現実世界の和田まあやのパーソナリティを垣間見るような雰囲気をまとう。

■東京の足を踏み入れる瞬間を描く作品

「住みし都」で上演されたのは、故郷を離れて東京に生きる架空の、しかし多くの人々にとってなにがしか既知の情景を喚起する若者の姿だった。そこには、主演の和田自身の人格も、東京を生きる若者像の一つとして綯い交ぜに織り込まれる。

 他方、同作品からおよそ一年後、彼女にとって「住みし都」以来の個人PVとなる作品内でクローズアップされたのは、彼女が「都」での生活を始める少し前、確固たる目的を持って東京に足を踏み入れる瞬間だった。

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