朗読詩人 成宮アイコ エッセイ
「愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル」
朗読詩人の彼女が、大好きなアイドルのことと、なかなか好きになれない自分と生活のことを綴る連載。
■配信が終わればまた現実だけれど
短ければ対バンの15分、長くてもワンマンライブで約3時間ほどの“大丈夫になる瞬間”をもらいに、わたしたちはアイドルのライブ現場へ足を運びます。
コロナ禍ということもあって、最近は現場がライブハウスではなくパソコンの前になることが多いのですが、気持ちとしては同じです。
ライブが始まる前、告知画像から一瞬黒い画面に切り替わる瞬間、画面の向こうには緊張をしたメンバーがいて、画面のこちらには視聴するだけなのに同じく緊張をしたわたしがいます。時間があわなくてアーカイブ配信を見ることも多いなか、その日はちょうどリアルタイムでライブ配信を見ることができました。イヤホンのなかでは大好きなメンバーが歌っていて、暗くしたわたしの部屋を画面越しの照明が照らします。
独り言なんて普段は口にしないのに思わず「ああ、幸せ…」と声をもらし、こんなに幸せな気持ちならなんだってできるぞと無敵な気持ちになり、推しがアップになった瞬間に課金をし、用意したちょっと高い果実入りジュースに手もつけず、1時間半のライブは一瞬で終わりました。