■楓の強さと美しさに惹きつけられる

 日本ユニシスのバドミントン部は、現実の世界でも実業団としてトップレベルだ。ここで行われる特別練習に参加が許されるというまたとないチャンスが巡ってくる。ただし、期間は1ヶ月の厳しい特訓で、これでは東大受験のネックになるのは分かり切ったことだった。

  膝の怪我でバドミントンの強豪大学への推薦も消え、最後のインターハイへの出場さえも断念せざるを得ないことに、両親を失望させてしまったことに負い目を感じている楓に、特訓を断る勇気はなかった。楓の両親は自分たちの夢、オリンピック出場を楓に託してきた。それを楓も望み、幼少のころからバドミントン一筋でここまできたのだ。

 どんな日でも両親が付き添い、何よりもバドミントンが優先されてきた日々を積み重ね、全国レベルの選手になるまで成長したのだ。怪我によってバドミントンが続けられないのはつらいだろう、しかしそれ以上に両親の期待に応えたい気持ちの方が強いのに泣けてくる。過労と睡眠不足で倒れるまで、何とか同時進行できないか精一杯頑張っていたくらいだ。どっちつかずの中途半端だったとは思えない、両方に全力だったと言えるだろう。

 それでも、桜木が言うように「お前にはお前の人生がある」のだ。これについては、楓もとうに分かっていたはずで、そうでもなければ東大へ行きたいという意志は芽生えていなかっただろう。楓の葛藤と複雑な感情をしっかり描いたことで、決意を固めた楓の言葉が強いものになった。親子の縁を切る覚悟で両親に自分の意思を伝える楓は強くて美しかったし、少し離れたところから見ている瀬戸が流した涙は、視聴者全員が流した涙と同じものだった。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4