■シーズン開幕以降も好調を維持

 その後、木次とのレギュラー争いを制した王は、開幕以降も好調を維持する。特に、4月14日の中日戦、前年に20勝を挙げた中日のエース・児玉泰から放った打球は、後楽園球場の右翼席場外に飛び込む逆転3ラン。まさに豪快な一発だった。試合後、この打席を王は、こう振り返っている。

「(打ったのは)真っすぐだったと思う。ベルトより高め。川上さん(当時のヘッドコーチ)からシュート、カーブを見逃してもいいから、腰を踏み込んで直球だけ引っ張れと言われた。その成果が出ました」

 4月26日の大洋戦で王は、3番に初抜擢。4番には、もちろん“ミスター”長嶋茂雄が座る。のちに、各球団から恐れられることになる“ON砲”が組まれた初めての試合である。

 大洋の先発は、58年に15勝、防御率2.72という好成績を残すも、長嶋に新人王をさらわれた左腕の鈴木隆。王が、1年目から苦手としていた投手だ。

「サウスポーのうえに、腕の振りがクニャクニャという感じで、タイミングが取りにくかった」とは、王の弁。

 この試合、左足を痛めていたという鈴木だが、強力な巨人打線を5安打に抑える快投。三塁すら踏ませない投球で、完封勝利を挙げた。長嶋は3打数無安打、王も2打数1安打と、初ON砲は不発に終わった。

 その後も王は、水原監督に期待され、3番を任されるようになる。だが、激しい好不調の波に襲われてしまう。

「5月14日の阪神戦で、“投げる精密機械”こと小山正明から、自身初となる2打席連続のホームランを放つと、以降、8試合で32打数16安打3本塁打、打率.410、長打率.718と絶好調。しかし、その後の8試合では、30打席でわずか2安打。うち8三振と“三振王”に逆戻りしてしまいました」(前出のベテラン記者)

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