■常人離れの情報処理スピード
鋭い棋風で知られ、現役時代は“終盤の魔術師”と評された森雞二九段も、羽生九段の才能を称賛しつつも、藤井五冠との共通点を、こう指摘する。
「それは卓越した処理能力です。棋士は対局中に、次の一手を何パターンも頭に浮かべて、それを取捨選択します。この作業のとき、羽生さんも藤井さんも、常人離れした処理のスピードで、有効な手だけを拾い上げ、その手を、より深く熟考していくんです。たとえるなら、通常の棋士が100手ほど考える場面でも、この両人なら1000手以上を考えてしまうくらいの力があると思います」
この能力が特に生かされるのが、終盤の勝負を左右する場面に現れる“詰み”までの局面だ。
「詰みとは、王将が敵の駒に攻められて、逃げ切れなくなり負けることです。高い処理能力が要求される作業ですが、この勝利までの道筋を逃さない力が、対局するプロ棋士にとって非常に脅威となります」(前同)
つまり、勝負の鍵は終盤の力比べにあると言えよう。ただ、卓越した能力を持つ両者が戦った場合、その差は生まれるのか。
そこで森九段が注目するのは、羽生九段のみに見られる、終盤での独特な動きだ。
「羽生さんは、終盤で相手に隙を見せて、惑わすような一手を指すことがあります。それに相手が引っかかって、終盤で逆転を許してしまう。これが、いわゆる“羽生マジック”です」(同)