■超高度な作戦を出しあう一局

 森九段は過去に、この羽生マジックに、煮え湯を飲まされた経験もあると言う。

「羽生さんが六冠を有していた1995年の第43期王座戦五番勝負で、私は挑戦者として戦いました。その第2局で、私が有利のまま終盤まで持ち込めた局面があったんですが、羽生さんの意外な一手に誘われ、詰みを逃してしまい、そのまま逆転負け。“やられた”という感じでしたね」では、不利な状況でも、一気に覆す力を持っている羽生九段が、終盤まで相手を惑わすのが勝ち筋か。

「ただ、藤井さんが、羽生さんの誘いに引っかかる可能性は低いでしょう。藤井さんは、それだけ読みが優れている棋士です。逆に、藤井さんの代名詞である“AI超えの一手”のような、羽生さんの予想を超える手を指して、形勢が変わるかもしれません。どちらが勝つか、予想は難しいですね」(前同)

 そして、森九段は両者の強さを、こう言い表した。

「2人の強さは本当に似ていて、かつ強力です。もし、対局が実現したら、“相手の読みを、いかに外すか”という超高度な作戦を互いに出し合う、とても見応えのあるものになるのではないでしょうか」

 最後に、前出の弦巻氏も、こう語った。

「相撲にたとえるなら、1960年代の大横綱・大鵬と、現代の大横綱・白鵬が対戦したら、どっちが勝つか、予想するようなもの。やっぱり比べられないよ」

 この結末は、将棋の神をもってしても読み切れないのかもしれない。

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