■村田諒太もスター性のある世界チャンピオン

 この数年、井上君以外の日本人ボクサーで目立ったのは村田諒太君かな。オリンピックで金メダルを獲っただけあって、基礎がしっかりできているし、何よりスター性のある世界チャンピオンだった。そして、世界的に一番層が厚いミドル級で、日本人が通用することを証明したのが素晴らしい。負けたけど、ゴロフキンとのタイトルマッチも中身の濃い試合でした。

 他には、僕の13回連続世界王座防衛の記録を塗り替えそうだった山中慎介君ですね。あと1回というところで負けちゃったんだけど、こうした記録は対戦相手によって大きく左右されるから。13度目の防衛戦で負けたルイス・ネリは、山中君が一番やりづらいタイプだったと思う。

 でも、やはり井上尚弥君が突出しています。日本ボクシング界の宝。彼が負けたら、日本のボクシング界は灯が消えてしまうんじゃないかとさえ思う。だから、彼が勝っている間に次のスターが誕生してほしい。

■ボクシングとの出会い

――井上尚弥と対照的に、具志堅自身は、高校に上がるまで、テレビでボクシングを見たこともなかった。高校入試での不注意が、人生を大きく変えることになった。

 地元・石垣島の公立高校へ行くつもりだったんだけど、入試で答案用紙に自分の名前を書くのを忘れちゃった。当然、不合格。それで本島の興南高校に進みました。2学期になって、同級生に誘われ、ボクシング部の練習を見に行ったのが、ボクシングとの出会いです。

 もともと小学校の頃からスポーツ万能だったけど、体が小さかったからね。野球やサッカーだと、どうしても体格的に厳しい。でも、ボクシングは体重制だから、体が小さいことは少しも不利にはならない。それで、自分にもやれるかなぁと思ったわけです。

 とにかく練習は厳しかったですよ。毎日がボクシング漬け。おかげで、入部3か月目の沖縄新人大会で準優勝。その記事が新聞に出て、僕がボクシングをしていたことが家族にバレちゃった。おふくろには、いつも“絶対に人を殴っちゃいけない”と言われていましたから。それからは島に帰るたびに、“辞めろ”と言われたので、しばらくは帰りませんでした。

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