■高倉健さんからの3度の電話

――具志堅伝説は他にも。たとえば、トレーニングとして、飛んでいる蚊をジャブで叩き落としたというエピソード。

 夏になると、朝早く公園に行って、虫を相手にトレーニングするわけです。蚊をジャブで叩き落とすなんて、少しも難しいことじゃないですよ。だって、蚊のスピードよりパンチのほうが速いんだから。

 それにボクサーの基本は相手のパンチを避けて、自分のパンチを相手に的確にヒットさせること。だから、飛んできた蚊をスウェーしてかわし、ジャブで打って落とすのはいい練習でした。

 当時は24時間、ボクシングのことばっかり考えていたから、なんだってトレーニングになった。電車に乗っていても、窓から見える看板の文字を読むとか。ボクサーにとって動体視力は生命線。引退したときは若い頃に比べ、かなり動体視力は落ちていたよね。あの王貞治さんだって、晩年は動体視力がかなり衰えたと言っていましたから。スポーツ選手の宿命でしょうね。

――世界チャンピオンになって、うれしかったのは、子どもの頃から憧れたスターやスポーツ選手に会えたことだという。

 王さんとは世界チャンピオンになって、すぐに会いました。新聞社の企画で対談させてもらったんです。その後、長嶋茂雄さんや張本勲さんにもお会いできたし、年末にスポーツ新聞などが主催するスポーツ賞の授賞式で、いろんな方と話ができたのは、いい思い出ですね。相撲の輪島さん、北の湖さん、千代の富士さん、野球の山本浩二さん、ゴルフの青木功さん……。

 でも、一番驚いたのは高倉健さんですね。3度、電話がかかってきました。僕がKO勝ちしたときと、ドキュメンタリー番組が放映された後だったかな。

“高倉健です。とても感動しました。今度、ジムにお伺いしますから。一緒にコーヒーを飲みましょう”

 そんな感じで、すごく礼儀正しいんで恐縮してしまいました。健さん、ボクシングが大好きなんですね。健さん直筆のサインが入ったグローブや万年筆も送ってくれました。ただ、飛行機で一緒になったときは緊張しましたねぇ。僕の真後ろが健さんの席だったので、とうとう椅子を倒すことができませんでした。

――今年で67歳。トレードマークのアフロヘアと口ひげはボクサーの頃と変わらない。体型も若々しい。健康と体力を保つ秘訣について、こう語る。

 やっぱり、自分が好きなもの、おいしいと思うものは食べたほうがいいよね。僕は今でもアイスクリームを食べるから。お酒も、ほぼ毎日。といっても、ワインと焼酎を少々だけど。家にいるときは、自分でスーパーに買い物にも行きます。

 冷凍食品を買ってきて、電子レンジでチンして、それをつまみに一杯やるとかね。今の冷凍食品はホントにおいしいんでビックリ。

 あとはゴルフと散歩。少し体が鈍ってきたなと思ったら、近くを1時間くらい歩きます。それに、これからは旅行にも行けそうだから、楽しみです。僕はテレビの仕事も、スタジオにいるよりロケのほうが好き。

 いろんな土地に行き、いろんな人と会い、いろんなものを食べる。そういう好奇心と行動力が若さを保つ秘訣のように思います。大好きな台湾をはじめ、海外にも行きたいですね。

――ちなみに、最初のパスポートの写真はファイティングポーズだった。これも、具志堅伝説の一つである。

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