■落合博満もやって来て…

「誰に対しても分け隔てない態度で、ネガティブなことも言わない。ティー打撃でも、そばでジッと見ていて、よかったときだけ“いいよいいよ。今のを忘れるな”。とにかく俺らを気持ちよく練習させてくれた」

 教えを乞われれば、たとえ敵チームの選手であっても、助言は惜しまない。

 現役時代は指導者と衝突することもままあった高橋氏も、その懐の深さに「感謝しかない」と続ける。

「試合前でも、中西さんのもとには敵味方関係なく選手が集まってくる。あるとき、俺の練習を中西さんが見てくれているところに落合(博満)さんが来て、中西さんと談笑しながら“おまえの場合はもっとこうだよ”なんてアドバイスをくれたこともあったよ(笑)」

■55号ホームランの新記録が打ち立てられて

 一方、ホームランと言えば、“世界の王”王貞治を抜きにしては語れない。

 燦然と輝く868本の中でも、最長の飛距離を誇るのが64年3月20日、国鉄との開幕戦で、金田正一から放った場外2ランだ。

「翌日の報知新聞に躍った見出しは“150メートルの場外ホーマー”。打球は後楽園球場の右翼スタンドから道一つ隔てたコーヒー店の屋根に落ちたとされていますから、実質170メートル近くは飛んでいた計算です」(前出のジャーナリスト)

 64年は、シーズン55号の新記録が打ち立てられた年。この一発で「一本足か、二本足に戻すか」の迷いを吹っ切った王は、5月3日、阪神戦での4打席連続弾をはじめ、シーズンを通して打ちに打ちまくった。

「それまで“一本足”転向後の王さんをカモにしていた金田さんも、絶対の自信を持つ内角高めの直球を完璧に捉えられ、“あれで王を研究するようになった”と語っていた。王さんにとって、覚醒の一発だったのかもしれません」(前同)

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