大統領選での公約は、あまり守られないのがアメリカの常識だったが、新大統領の宣言通り、剛腕を振るう可能性が出てきたのだ。本稿では、トランプ氏の発言や公約を基に、今後、日本が被る“被害や恩恵”について検証したい。まずは、冒頭で取り上げたアメリカのTPP離脱によって、我々は何を覚悟しなければならないのか?

「アメリカのTPP離脱の先にあるのは、自国の保護貿易です。そうなると、加工組立業の割合が32%と、先進諸国の中でも際立って高い日本は、大打撃を受けることになります」(経済評論家の杉村富生氏)

 日本が今も昔も貿易立国なことに変わりはない。そもそも、TPPは加盟国間の貿易にかかる関税を事実上撤廃するという協定だ。「関税が撤廃される分、日本の工業製品が買われやすくなり、輸出増で景気が浮上。庶民生活から言うと、それが給料などに跳ね返ってくるというシナリオが幻に終わったことを意味します」(地方の商工会幹部)

 それどころか、貿易が停滞すれば、これまで以上に景気が大失速しかねない。しかも不気味なのは、トランプ氏がTPPからの撤退を表明すると同時に、「雇用と産業をアメリカに取り戻す公平な2国間貿易協定の交渉を進めていく」と宣言していることだ。「そうなると、TPPに代わり、日米が自由貿易協定を結ぶ可能性も考えられます。2国間協定の場合、交渉がしやすくなるだけに、アメリカからの要求がより厳しくなることでしょうね」(前出の杉村氏)

 これまでも野党がTPPの承認を拒んできたのは、輸出産業が潤う反面、デメリットも多いからだ。「まず挙げられるのが、国内の農業が打撃を受ける。TPP交渉でも、“聖域”と呼ばれた主要5品目(コメ・牛肉・豚肉・麦・乳製品)でさえ、譲歩させられています」(農協関係者)

 2国間貿易協定締結によって、アメリカ産のコメや牛肉が、これまで以上に安くなる可能性はあるが、「かつて、狂牛病とアメリカ産の牛肉との関係が取り沙汰されました。また、遺伝子組み換え食品が大量に輸入され、規制ができなくなる事態も想定されます。日本の“食の安全”が脅かされる可能性も否定できません」(市民団体幹部)

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5