北朝鮮の最高指導者である金正恩氏も、こうした状況は理解していると思われるが、現在のところ、“米朝間のチキンレース”から降りられないでいる。「国際外交を読み解くために用いられるゲーム理論でいうと、チキンレースにおける“ナッシュ均衡(合理的選択)”は、(1)両者とも勝負を降りず行動がエスカレートしていく、(2)両者とも同時に勝負を降りる――の2つしかありません。したがって、今回の緊張の帰結も、そのどちらかになるはずです」(軍事記者の黒鉦英夫氏)

 (2)の選択が実現するためには、北朝鮮をこれまで“後見”してきた中国の積極関与が不可欠となる。「4月の米中首脳会談で、トランプ大統領は習近平国家主席に対し、北朝鮮を説得するよう強く要請したと伝わっています。これがうまくいけば、軍事的緊張はピークを脱するはずです。ただ、米国を潜在的に敵視する中国側が、どこまで“説得役”の務めを果たせるか、疑問が残りますね」(前出の記者)

 話し合いによる解決が失敗に終わった場合、チキンレースの結末は「行動がエスカレートする」しかない。その場合は、「(北朝鮮が)一線を越える行動をとった瞬間に、米側が主要軍事施設を巡航ミサイルで一斉攻撃し、金王朝は崩壊する」(黒鉦氏)という。

「ただし、攻撃開始後すぐに金正恩氏を“除去”できなければ、在日米軍基地に弾道ミサイルが発射されたり、大口径の火砲が韓国のソウルに向け、火を噴くことになるでしょう」(前同)

 日本に飛んでくる弾道ミサイルが数発程度ならば、「自衛隊は100%撃墜できる能力を有している」(前出の防衛省関係者)というが、韓国は甚大な被害を受けることになるという。

「韓国の人口の4分の1が集中し、約1000万人が暮らす首都ソウルは、南北の軍事境界線である北緯38度線からわずか40キロのところにある。これは東京でいうなら、日本橋から八王子までの距離に等しい。北朝鮮は、軍事境界線付近に長射程の火砲の8割を集中させているといわれているため、これが一斉に発射されれば、ソウルには砲弾の雨が降り注ぐことになる。弾道ミサイルと違って、旧式の火砲の砲弾を迎撃する手段はないので、ソウルは壊滅的な打撃を受けてしまう」(前同)

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