ロフテッド軌道による発射とは、極端に言えば、弾道ミサイルを垂直に近い状態で打ち上げ、超高々度の宇宙空間に到達させ、そのまま地上目標に対し真っ逆さまに落下させる技術だ。

「この軌道の利点は2つあります。途方もない高度に到達するため、イージス艦のSM3艦対空ミサイルによる迎撃が困難なこと。加えて、超高々度からすさまじい速度で地上に落下してくるため、PAC3地対空ミサイルでも迎撃が困難なことです」(同)

 我が国は、弾道ミサイルを“2段階”で撃墜する態勢を取っている。防衛省関係者が説明する。

「弾道ミサイルには、発射から宇宙空間に到達するまでのブースト段階、惰性で宇宙空間を飛翔するミッドコース段階、大気圏に突入し落下してくるターミナル段階の3つの段階があります。イージス艦のミサイルは、ミッドコース段階での迎撃を想定しています。これで撃ち漏らしたら、ターミナル段階でPAC3が迎撃するんです」

 ただ、ロフテッド軌道を取った火星12号は、高度2000キロに到達したため、SM3の最大射程500キロ(推定)では迎撃不可能。「現在、高性能化したSM3ブロック2Aを日米共同開発中ですが、これとて最大射程は1000キロ程度です。火星12号は日本にとって大きな脅威となります」(軍事誌記者)

 こうした剣呑な弾道ミサイルを、北朝鮮は用途別に各種取りそろえている。「短距離ミサイルはスカッド、中距離はノドン、ムスダン、テポドン1号、長距離を飛ぶICBMはテポドン2号とその改良型があります。さらに、発射前の兆候が捉えにくい潜水艦発射式の弾道ミサイルも、実戦配備している可能性があります」(前出の黒鉦氏)

 各ミサイルの名称は、北朝鮮国内で発表されているものと異なるので、最終ページの表を参考にしていただきたい(ちなみに、北朝鮮では弾道ミサイルに「天体の名称」をつけることが多い)。

「まさに弾道ミサイルの見本市とも呼べる充実ぶりですが、最高指導者の金正恩氏が最も完成させたいのは、米政経中枢のワシントンを射程に収められるテポドン2号改でしょう。これは、米国民にとって“直接の脅威”となるからです。だから、トランプ大統領はICBMの実験だけは許さないとメッセージを送っているんです」(前出の軍事誌記者)

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