■仮想対決(2)怪物・江川卓vs怪物・ブーマー

 84年、打率.355、37本塁打、130打点で来日外国人選手初の三冠王となったのが、阪急ブレーブス最強の外国人助っ人、ブーマー・ウェルズ。実は、この年のオールスターでブーマーは全盛期の江川卓と対戦している。江川はこのとき、「8連続奪三振」をやってのけたのだが、全パの一人がブーマーだった。だが、お祭りのオールスターではなく、真剣勝負となれば結果は変わってくるはず。

 同じリーグでブーマーのバッティングを見てきた伊勢氏は言う。「これはブーマーが打っちゃうぞ。江川といえば高めのストレートだけど、ブーマーは高めを打つのがうまかった。外国人にはローボールヒッターが多いけど、ブーマーはバットのヘッドを立ててうまく打つ。今まで見てきた中では、一番かもしれない」

 高め勝負になるという点では、手束氏も同意見。「江川のスピンの効いたボールをブーマーが真芯で捉えたら、相当飛ぶはず。彼はかつて、渡辺久信の球を162メートル飛ばしたことがあるんだけど、同じぐらいは飛ぶんじゃないかな」

 だが、これは“当たれば”の話。オールスターでの対戦がそうだったように、ブーマーが振り回して三振する可能性も低くはない。江本氏が言う。「当時のパの野球は荒かった。ブーマーの振り回す打ち方では、全盛期の江川の高めの速球には太刀打ちできなかった。カスリもしなかったんじゃないかな」

 高めのストレートでの真っ向勝負。当たればホームラン、当たらなければ三振という力と力の勝負になったはず。おそらく通常の対戦なら、1試合で4回は対戦がある。ほとんどは、江川の勝ちだろうが、1試合に1回は、江川の癖である「一発病」が出て、ホームランを打たれたかもしれない。ただ、ランナーが溜まった「ここぞ」という場面では、江川がきっちりと三振に仕留めただろう。

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