広瀬すずの映画における“成長物語”と「目力」に救われる視聴者 平成アイドル水滸伝 第7回 宮崎あおいと広瀬すずの巻~映画と平成女性アイドル【後編】の画像
広瀬すずの映画における“成長物語”と「目力」に救われる視聴者 平成アイドル水滸伝 第7回 宮崎あおいと広瀬すずの巻~映画と平成女性アイドル【後編】の画像

平成アイドル水滸伝~宮沢りえから欅坂46まで~
第7回 宮崎あおいと広瀬すずの巻~映画と平成女性アイドル【後編】

広瀬すずの“成長物語”

 (前回の続き)同じく吉田秋生の作品が映画化されたのが『海街diary』(2015年公開)である。古びた一軒家で暮らす4人姉妹の穏やかな日常が『ラヴァーズ・キス』と同じく鎌倉(登場人物も一部重なる)の自然豊かな風景をバックに描かれていく。

 ただし是枝裕和監督によるこの映画は、決して古き良き家族を礼賛したものではない。

 一番下の妹で中学生の浅野すずは、3人の姉たちとは腹違いである。3人にとって、父親は自分たちを捨てて出ていった存在だ。だが父親の死を機に、3人はすずと同居することになる。

 それぞれの悩み、互いに対する複雑な感情を抱えながらも、4人がいかにして家族となっていくのか。家族は最初からそこにあるものではないし、あるべきかたちが決まっているわけでもない。それぞれが努力をして家族になろうとするしかない。そんなメッセージが行間から伝わってくる。この作品もまた、人と人との関係性が根本から問い直されている21世紀の日本ならではのものだろう。

 このなかで浅野すずを演じたのが、広瀬すずである。1998年生まれの彼女は、この映画での演技によって数々の新人賞に輝いた。明朗活発なサッカー少女である一方で、姉たちの前ではいつもどこか遠慮がち。だがこころの奥では自分の居場所を激しく求めている。そうした複雑な思春期の少女を彼女は存在感たっぷりに演じている。

 この『海街diary』でもそうだが、広瀬すずという女優にも、やはりどこか孤独の影がある。ただし宮崎あおいとは少し違って、内には狂おしいほどの感情が渦巻いている。そんな気配の伝わってくる孤独だ。

 今年放送された坂元裕二脚本の『anone』(日本テレビ系)は、そんな広瀬すずのたたずまいが最大限に生かされたドラマだった。

 広瀬すずが扮するのは親に捨てられ、児童養護施設で育った天涯孤独の少女・辻沢ハリカ。彼女はふとしたきっかけで田中裕子、小林聡美、阿部サダヲが扮する男女3人と出会い、田中扮する林田亜乃音の家にともに住むようになる。そしてやむを得ない事情から、偽札づくりに手を染めていく。

 この『anone』もまた、4人の人間が家族になろうとする話だ。ただ、『海街diary』の四姉妹には血のつながりがあった。ところが『anone』の4人には、それもなければ元々縁もゆかりもない。それなのに4人は、罪を犯すことになってもお互いを守ろうとする。

 ハリカは、そうして苦労の末に得られる家族という支えによってようやく自立への道を歩み始める。いわば、このドラマはハリカの“成長物語”でもあるのだ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3