その瞬間、単に安上がりな女を演じてるんじゃない。ガチでB級食の醍醐味を知ってる女子だな……とすぐ理解できた。なんでも「幼い頃、父に連れて行ってもらったのがきっかけで、こんな大人な場所があるんだ」と、立ち食いの魅力に取り憑かれたと栞里は語る。立ち食いのどこに「大人」を感じたかの説明はなかったが、素晴らしい食育をされたお父さんに感謝だ!

 ちなみに弥生軒はむしろ、JR我孫子駅ホームにある店のほうが知られていよう。隣の天王台駅とで都合4軒あり、新津田沼店は16年9月に出店、昨年の8月には3年持たずに閉店してしまった。

 同社の創業は1928年に遡り、当初は駅弁を扱っていたという。42年から5年間、画家の山下清が勤務していたことでも知られる。立ち食い蕎麦の営業を67年に始め、駅弁の販売は83年頃に終了。80年代末にから揚げそばがデビューした。

 ぼくも数年前、我孫子に取材に出た際、喜び勇んで食べた。唐揚げがボリューミーなだけでなく、味わいも秀でており、濃いめの蕎麦つゆが負けじと追い討ちをかける感に、しばし陶酔したものだ。

 JR東日本の子会社NRE系の駅そばにはいろり庵きらく、あじさい茶屋、大江戸そば、爽亭、濱そばを柱にいくつものブランドがあるが、常磐線の駅には山手線等と重複する上野駅と日暮里駅を除けば、NRE店は一切存在しない。バラエティ豊かな立ち食いの世界をエンジョイできるのだ。

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