■落語家”小林家さとし”の誕生

小林聡は通算69戦を闘い、国内外の様々なタイトルを獲得した
小林聡は通算69戦を闘い、国内外の様々なタイトルを獲得した

 後日うちの仕事場に来てもらった。落語をやりたいということなので、外弟子という形をとって、それでもよければやってもいいことにした。

 となると、「林家」と名乗るのはこの世界の不文律に反することになるので、悩んだ結果「小林家」にした。我々の世界でよく名前の頭に「小」をつけることはあるが、なんと屋号につけちゃった。

 聡もひらがなにして「小林家さとし」が誕生した。まぁ芸界で僕などは何でもないが一応筋は通した形である。

 彼が「野良犬」と呼ばれていることも知っている。どこぞで「どこの一門だ?」となった時「彦いちのとこ」となる。野良犬的噺家としてはちょうどいいかも。あるとき何の連絡もなくいなくなることがあってもそれはいいと思った。野良犬だからしょうがない。

 着物の畳み方から教えた。これまでどういう生活をしてきたのかわからないが、彼は「衣服はあまり畳まない族」だった。

 がさつな僕を知る人は信じられないかもしれないが、着物はきちんと畳まないと折り皴が目立つことや、着物での座り方、歩き方など所作も教えた。背丈がほぼ一緒なので、着物、長襦袢、帯、足袋など一式あげた。

 まるで珍しいものをみるように、着物を眺めて彼は「これって必ず着なきゃいけないんですよね、落語って」。形から入る人もいる古典芸能においてあまり聞いたことのない質問だった。

「僕もそれ考えたことあるけど、いろんな人物を演じるので、特定の洋服より好都合なんだ」と説明した。

「はい」

 返事はいいが、あまり伝わってない感じがした。

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