■むしろ無観客試合をやってみたい
前述した通り、志朗の現在の主戦場は日本。当初4月12日のエディオンアリーナ大阪で開催の『RISE ASIA SERIES2020 -55kgトーナメント』ではメールダード・サヤディ(イラン)と対戦する予定だった。サヤディとの対戦が正式に決まるや、志朗はスペインから仮想サヤディともいうべきキックボクサーを招聘して対策に務めていた。「その時点で、パートナーの選手からスペインの試合もなくなったと聞いていたので、日本でも中止になることはありえるんじゃないかという話をしていました」
案の定、志朗の思惑は的中する。結局、コロナの影響でサヤディが来日不可能になったため、対戦カードはリザーバーから繰り上がった良星(平井道場)とのトーナメント一回戦に変更された。しかしその後、大会そのものが中止になってしまったため、トーナメントがペンディングになっている状況だ。
それでも、志朗は平常心を保っている。
「対戦相手は良星選手のままと聞いています。ずっと良星選手用の作戦プランを考えながら練習してきたので、イメージは結構できています。だから(いつ対戦することになっても)問題はない」
日本で新型コロナが拡大する中、志朗はできる限りコロナ対策を立てながら練習を続けてきた。
「かなりヤバいと思ったので、僕はもう長いこと電車に乗っていない。どこに行くのも車。人混みは避けています」
次の試合日程が決まらない中、志朗にとってモチベーションの維持はそれほど難しいことでなかった。
「この期間に頭を使って、やり続けた者がコロナ後に強くなっていると思っていましたから。練習はシャドーでもいいし、ひとりでもいくらでもできる。おかげで、この間で新しい技をいくつか開発することもできました。自分にとっては、いい練習期間だったと思っています」
無観客試合もオファーがあれば、積極的に受け入れようと考えている。
「いまの流れだったら、一回くらい無観客試合を経験したいという思いが強い。だって、(コロナが明けたら)もうありえない試合形態になるかもしれない。お客さんからの声援は力になるけど、選手は試合をしなければならないので、現状を踏まえるとそういう試合形式も仕方ない。イメージ? やってみないとわからないですね。ただ、リングに上がった時の景色は全然違うと思う」
先日、そんな志朗に試合のオファーが舞い込んだ。そもそも非日常を生きる男に与えられた、さらなる非日常の試練。いつもの非日常だけの日常は戻ってくるのか。
(取材・文=布施鋼治)
志朗(しろう)
1993年6月23日生まれ。埼玉県さいたま市出身。キックボクサー。BeWELLジム所属。3歳からキックボクシングを始め、15歳で修行のために単身でムエタイの本場タイに渡る。ISKA世界バンタム級世界チャンピオンの他、複数のタイトルを奪取。2016年以降は闘いの場を国内に移し、現在はRISEのリングをメインに闘っている。2020年6月現在、24戦18勝(KO9)2敗4分。
布施 鋼治(ふせ こうじ)
1963年北海道生まれ。スポーツライター。レスリング、ムエタイなど格闘技全般を中心に執筆。最近は柔道、空手、テコンドーも積極的に取材。2008年に『吉田沙保里119連勝の方程式』(新潮社)でミズノ第19回スポーツライター賞優秀賞を受賞。他に『なぜ日本の女子レスリングは強くなったのか 吉田沙保里と伊調馨』(双葉社)など。2019年より『格闘王誕生! ONE Championship』(テレビ東京)の解説を務めている。
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