■税込み2550円でリーズナブル!

 つい先日、ネット上で「ポテトサラダ論争」が話題となったが、松永さんは「手を抜けるところは抜いたほうがいい」と語る。

「ウチもステーキ以外のもの、たとえばスープとかは市販されているものを使っていますよ。もちろん、そのまま出すのではなく牛スジを加えたりして手をかけていますが、イチから自家製にはこだわらない。そこに時間を割くぐらいだったら、ひたすら牛肉をおいしく柔らかくすることに全精力を注ぎこんだほうがいいに決まっているじゃないですか?」

 さて、気になる1ポンドステーキセットのお値段だが、ライスとスープがついて2550円。このボリュームで2000円台の価格帯でがんばっているお店もあるが、そのほとんどは税別表示。だが『ミスターデンジャー』は税込で2550円! いま、もうひとつの看板メニューとしてプッシュしているヱビス生ビール(中ジョッキで300円!)を追加オーダーしても、なんと3000円でおつりがきてしまう。これなら毎週のようにステーキを食べる、という贅沢も可能だし、実際にたくさんのリピーターが足繁く通ってくれるからこそ行列ができる人気店として定着してきた。

 もちろん、ここに至るまでは幾多の苦難があった。そのすべてが書かれた松永さんの最新刊『オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』(ワニブックス・刊)が、いま話題になっている。

 異色のビジネス書ではあるのだが、コロナショックに見舞われてから執筆をはじめ、緊急事態宣言が解除されるタイミングで書き終えるというスケジュールで作られたため、街の飲食店がコロナ禍でどんな影響を受け、どんな知恵で乗り切ってきたのかが時系列でわかる良質なドキュメント、という側面もあり、なかなか読み応えがある。

 その中でも意外だったのは、地域住民や従業員とのハートフルな関係を描いた部分(第3章『金』よりも『人』を大事にすれば、いつかは救われる)。元プロレスラー、しかもデスマッチ王と聞くと、もうイカついイメージしかないかもしれないが、松永さんは極めて常識人なのだ。

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