■稲尾のようにフル回転の大谷翔平

 西鉄の大逆転劇は、稲尾という希代の投手の犠牲の上にあったのかもしれない。「西鉄が西武に代わった後も、86年に7ゲーム、98年には10ゲーム、そして昨年2019年にも8.5ゲーム差を跳ね返し、優勝しています。西鉄の逆転優勝の系譜は、ちゃんと引き継がれていると言えますね」(スポーツ紙記者)

 稲尾のように、フル回転でチームの逆転優勝に貢献した選手は他にもいる。16年の日本ハム・大谷翔平だ。前年、15勝を挙げた大谷だったが、この年、開幕直後は勝てず、初勝利は5月に入ってから。しかし、その後は7連勝を果たすなど、調子を上げていく。「5月下旬からは、DHなしで登板するリアル二刀流も解禁。中でも1番・投手で先発し、先頭打者初球本塁打、投げても8回10奪三振で勝利したソフトバンク戦は強烈でした」(スポーツジャーナリスト)

 大谷の投打にわたる活躍に引っ張られるように、11.5差をつけられていたチームは息を吹き返し、首位・ソフトバンクに肉薄。そして9月、優勝のかかった大一番の西武戦。先発した大谷は1安打完封15奪三振という圧倒的な投球を見せ、胴上げ投手となる。「この試合は、花巻東の先輩・菊池雄星が相手。しかも大事な試合で、いい投球ができたことに、大谷本人も“今後への自信になった”と、満足感を口にしていました」(当時の担当記者)

 結果、日ハムは10年ぶりとなる日本一を達成。大谷は10勝・22本塁打とし、二刀流のキャリアハイをマーク。MVPも獲得した。「日本一になった後、大谷は“日ハムに入ってよかった”と語っていました。二刀流への雑音もあった中、チームを優勝に導ける活躍ができたことで、二刀流を続ける確信を持ったんでしょう」(前同)

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4