監督の松本動はここで、方言を強く残す当時の大園特有のイントネーションをうまくすくい上げ、まだ物理的にも心理的にも居所の定まらない主人公のたたずまいのなかに昇華してみせている。

 そしてラストカット最後の一瞬、緩和した大園の表情までが作品内におさめられることで、演技者のごく初期段階の貴重な記録をパッケージしたものになった。

「バージン・ブリーズ」から数カ月後、大園はシングル『逃げ水』で与田祐希とともにWセンターを務める。山岸聖太が監督する同曲MVでは広大な屋敷に仕える見習い侍女の役を務め、アイドルシーンという〈異界〉に足を踏み入れてゆく己の境遇と重なる立場を演じた(/articles/-/74259)。

 そして翌年、3期生のみ個人PVが制作されるシフトとなった20枚目シングル『シンクロニシティ』では、その山岸とタッグを組んでドラマ型の個人PV「SUTERU」に主演する。

■初の個人PVからの跳躍

 乃木坂46のドラマ型個人PV史における重要人物であった山岸の濃厚な世界に大園が対峙した「SUTERU」については、すでに4月28日更新分(/articles/-/74259)で取り上げた。

 黒田大輔や師岡広明ら山岸ワールドを担ってきた俳優を相手に、大園はストーリーの成り行きをリードしつつ、ときに黒田と師岡のいさかいを部外者として傍観するような、異色の存在感でドラマ内に収まっていた。一人の演技者が虚構の世界にコミットする瞬間と、いまだ〈異界〉を外部から眺めるようなさまとを行き来する、ユニークな立ち位置の作品として「SUTERU」はある。

  1. 1
  2. 2
  3. 3