この時期、研究生である彼女たちには一人一人の個人PVが制作されることはなく、研究生のPVは一作につき数人ずつが出演するかたちで三篇にまとめられた。三篇すべての監督を任された山田はこの形式を利用し、相互に連関するショートドラマを描き出す。

『a trainee’s fugue』の一篇となる「28日と6時間と42分12秒」では、休日の学校を訪れた鈴木絢音寺田蘭世、米徳京花の三人が、鈴木が紛失した携帯電話を見つけるため校内を探索する一コマが描かれる。

 マイペースに思索する寺田の佇まいや、ふいに軽やかなドライさを演じてみせる鈴木の表情など、今日の演者としての彼女たちに通じる芝居のありようも興味深い。

 鈴木の携帯電話探しを手伝いながら、寺田が時折ぼんやりと空を眺めているのは、昨晩観たという映画の記憶ゆえである。寺田が断片的に語るディテールやこのPVのタイトルから、その映画は2001年公開の『ドニー・ダーコ』であることがわかるが、寺田は同映画で最大の鍵となる、とある飛行機事故のイメージを反芻するように空を見上げ続ける。

 やがて、まさに空から紙飛行機が降ってくる印象的なシーンとともにこの作品は幕を閉じるが、この紙飛行機は他の二篇と本作とをつなぐキーアイテムになっている。

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