■それぞれの作品をリンクさせる小道具

 紙飛行機が降ってきた理由が描かれるのが、『a trainee’s fugue』の二篇目となる「手紙」である。屋上で紙飛行機を折る伊藤かりん伊藤純奈のもとに佐々木琴子が合流し、フェンスを乗り越え地上に向かって紙飛行機を飛ばすひとときがドラマに仕立てられている。

 フェンスの向こうでふざけ合う伊藤純奈、伊藤かりんの後を追って、佐々木がためらいながら二人に追いつくまでの情景は、きわめてささやかな感情の揺れを捉えたものでありながらも忘れがたい余韻を残す。

 そして、これら二篇をつなげることで、地上で探しものをする寺田たちと、屋上で遊ぶ佐々木たちとが、同じ時を共有している同級生であることが浮かび上がってくる。

 最後の三作目が、山崎怜奈渡辺みり愛出演の「里沙子を待ちながら」である。タイトルには、彼女たちと同じく研究生として在籍しつつ、学業のため撮影に不参加だった矢田里沙子の名が付されている。

 矢田自身は最後まで姿を現さず、校舎内で矢田の到着を待ち続ける山崎と渡辺の会話でドラマが進行するが、この基本構造はタイトル引用元のサミュエル・ベケットによる戯曲『ゴドーを待ちながら』と同一である。

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