井上小百合が頃安監督と三度目のタッグを組んだ作品で見せた「危険な人物像」【乃木坂46「個人PVという実験場」第10回 5/5】の画像
※画像は『乃木坂46 井上小百合ファースト写真集 存在』(光文社)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第10回 特異な個性を持つドラマ型作品を担ってきた頃安祐良 5/5

■アイドルに憧れを持つ主人公たちのドラマ

 ここまで、乃木坂46の個人PVにおける頃安祐良監督作品について、主に二つの側面に分けながら概観してきた。すなわち、「報われない者」を中心に描くドラマ作家としての側面、そして「アイドル」という存在のありようを掘り下げたメタ的・複層的な映像の作り手としての側面である。その二つの面の中間点にあるのが、物語の内に意匠としてアイドルへの愛着を組み込み、頃安によるドラマ型個人PVとしては例外的にハッピーエンドに仕上げた井上小百合斉藤優里ペアPV「愛の飛び蹴り」(/articles/-/81351)だといえるだろう。

 ところで、頃安が映像作家として注目を集めるひとつの画期となった映画『あの娘、早くババアになればいいのに』(2014年)もまた、「アイドル」に強い憧憬を抱く主人公たちのドラマだった。

https://www.youtube.com/watch?v=tESUxyf-YfU
(※映画『あの娘、早くババアになればいいのに』予告編)

 アイドルファンの中年男性(尾本貴史)が、血のつながらない高校生の娘(中村朝佳)をアイドルに育てようと奮闘する同作は、アイドルへの強い思い入れとファンを俯瞰する視線とが相半ばする特有の手ざわりをもち、公開時から話題を呼んだ。

 また一方で、『あの娘、早くババアになればいいのに』は、登場する人物像や展開に、あやういバランスを宿した作品でもあった。同作公開と前後する時期、すでに頃安は井上小百合の個人PV「ともだちのともだち」で抑制の効いたドラマを生み出していたが、その作劇とは対照的ないびつさの発露が同映画にはみてとれる。

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