■ナチュラルなテンションで演じられる「狂気」

 その頃安が秘めたあやうさがまた別の形をとり、やがてより戦略的な形で顔を覗かせたのが、井上小百合の個人PV「Weekend」(2018年)だった。

https://www.youtube.com/watch?v=oEdGqn73IdQ
(※井上小百合個人PV「Weekend」予告編)

 井上が留守中の恋人宅を訪ねる人物を演じた「Weekend」は、井上本人による自撮りで構成されている。一般人が他意なく携帯端末のカメラを回しているような、カジュアルでプライベートな井上の振る舞いは、作品中盤まではごくごく微笑ましい姿として映し出される。

 しかし、やがて彼女と“彼氏”との関係が視覚的に示唆され、井上と相手が一緒に画面に収まるラストカットに至って、この作品の恐ろしさが一気にあらわになる。

 モキュメンタリー風味の自撮り映像のなかで、井上がナチュラルなテンションを巧みに演じてみせるほどに、主人公の狂気がリアリティをもって迫ってくる。

 キャリアを重ねるなかで手際に洗練をみせる頃安と、すでに俳優として定評を得ていた井上とが三度目のタッグを組んだ「Weekend」は、個人PV/ペアPVにおける頃安のフィルモグラフィー上、最も危険な人物像が描出された作品である。

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