■アイドルを特権的な何かではなく「不完全な個人」として描く

 他方、ストーリーに目を向ければ、遠藤演じるサムは周囲のメンバーたちのパーソナルな問題や葛藤に対して不躾に首を突っ込んでくる、厄介な人物としてたびたび回想シーンに登場する。

 性的マイノリティとしての自認をもつアリ(早川)に無神経な言葉を投げ、アルコール依存に起因するトラブルを隠そうとするキム(田村)の心情を解しようとせず、自分のペースに引き込もうとする。

 あるいは、身内への嫉妬ゆえに陰湿な行動に出てしまうモモ(掛橋)の所業を目ざとく見つけ、借金に追い詰められるスミ(金川)の前に絶妙のタイミングで現れて、とある決定的な行動を思いとどまらせる。

 サムという人物は、相手の心情を顧みない無遠慮さで他者をかき乱しながらも、同時にその振る舞いがどこか相手の悩みを軽くするような、救いに似た不可思議な佇まいをもっている。

 この独特の存在感は、設定やエピソードの中身を大きく変えながらも、原作小説とドラマ版双方に通底するものだ。さらにドラマ版では、遠藤によって演じられる飄々とした風情によって、よりとらえどころのないサム像が提示されている。

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