■ささやかなドラマの中に大仰なVFXが挟み込まれる
しかし、彼の作家性を十二分に堪能できるのはやはり、部分的な視覚効果にとどまらずドラマをトータルに手がけた作品である。乃木坂46の個人PV史において荒船がその手腕を示した嚆矢は、13枚目シングル『今、話したい誰かがいる』収録の能條愛未主演「アンゴルモアの大王の娘」だった。
https://www.youtube.com/watch?v=VF1SxZ-xPdQ
(※能條愛未個人PV「アンゴルモアの大王の娘」予告編)
人類滅亡を示唆しているとされたノストラダムスの『予言集』を下敷きにしたこのドラマでは、世界を滅ぼすはずの「アンゴルモアの大王」が娘の誕生を契機に翻意し、良き父として日常世界に溶け込んで暮らすさまが描かれる。
物語そのものは、能條演じる一人娘に対してぎこちないコミュニケーションに終始してしまう父親が、娘への不器用なサプライズを企画する、なんとも微笑ましい一コマである。しかし、そんなささやかなドラマの中にしばしば挿入されるのは、荒船の真骨頂であるVFXを駆使した大仰な画だ。