■“試合筋”のコントロールとは?

森末 体操の場合は、“試合筋”のコントロールです。

――“試合筋”とは?

森末 試合のときにしか出てこない、ふだんの練習では出てこない力、いわゆる“火事場のバカ力”ですよ。体操は、10の力のうち、だいたい、“7”で試合をやるのが理想です。それが、試合の緊張やプレッシャー、ワクワク感といったものでまでパワーが出てしまったり、場合によっては11、まで出てしまったりするんです。ふだんは、つり輪の十字懸垂が止まらないのに、試合ではガーンと力が入ってピタッと止まってしまう。そうなってくると、その場はいいんだけど、乳酸のたまり方が異常なんで、後半に影響が出てきて、練習では考えられないような失敗が出たりするんです。

――自分の意思でコントロールできるものなんでしょうか?

森末 “今、11出てるぞ”“12出てるな”ということが自覚できていれば、その力も使いようがあるんですけど、それは相当の練習と経験が必要になってきます。簡単なことじゃない。内村航平っていうのは、ずっと7で、できるらしいんですよ。どこに行っても7だって。それが彼の強みなんです。

 森末氏は、内村選手は鉄棒以外にも十分、メダルの可能性があるという。現在の日本選手たちと、彼らを取り巻くライバル国の現状を聞いてみた。

森末 航平は、H難度の離れ技“ブレッドシュナイダー”の精度も上がってきていますから、出場すれば、メダルのどれかは取れると思いますよ。とはいえ、国内にも自身の鉄棒の技“ミヤチ”を持つ宮地秀ひで享たか(27)のような選手がいますから、安心はできません。でも航平は、オールマイティに、どこにでも使えますし、チームの精神的支柱にもなる。ライバル国へのプレッシャーにもなるので、鉄棒のみならず、団体にも絶対選出してほしい。

――体操は、今回も団体の金メダルが期待されています。19年の世界選手権の中心選手だった、航(24)・翔(22)の谷川兄弟、萱和磨(24)選手が、五輪でも中心になりそうです。どのように見ていますか?

森末 ちょっと厳しい言い方になってしまいますが、航平以外には、まだ不安要素があります。彼らが、これから本番までに、どこまで成長できるかですね。

――ライバルは、ロシアが参加しない今回、やはり中国でしょうか?

森末 そうですね。ただ、アメリカも怖い存在です。今までは、瞬発力頼みの大ざっぱな体操だったんですけど、近年、日本や中国のコーチが指導し始めて、技に繊細さが加わりだしているんです。そうなると、脅威です。しかも、アメリカには“プロ体操”もあって人気が高く、体操がお金になる環境もあって、人材も集まり始めています。すでに女子はロンドン、リオと連覇していますけど、男子も伸びてきていますから、非常に手ごわくなっています。

――どうしたら強力なライバルに勝てるでしょうか。

森末 繰り返しになりますが、内村航平を鉄棒以外にも出すこと。あとは思い切った若手の起用でしょうね。18年のユース五輪個人総合と種目別4種目で金メダルを取って“次世代エース”と期待される、北園丈琉(18)。昨年の全日本学生選手権で、谷川翔を破って個人総合を制覇した橋本大輝(18)。この2人には、大いに暴れてもらいたい。

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