■ストレートとカーブだけで9者連続三振

 スーパースターONが牽引したV9時代の巨人が属する全セに、対抗意識をフツフツと燃やしていたのが、全パの面々。プロ2年目の70年から13年連続で出場を果たした“ミスターロッテ”有藤通世氏が振り返る。

「手抜きというのとは、また違うんだろうけど、当時のセ・リーグには、僕らみたいなギラギラした雰囲気があまりなくて。巨人選手には特に余裕を感じたよ。僕自身は、同じ三塁手として長嶋さんが目標でもあった。だから、一瞬たりとも逃すまいと、あの人の動きばかり追っていたね」

 そんな“ギラギラ”な有藤氏らに立ち塞がったのが、のちに全パの一員にもなった阪神の江夏豊。71年、西宮球場での第1戦で江夏が達成した9者連続三振は、いまだに破られていない大記録だ。

「あの試合は僕が1番打者。あそこまで球威のある真っすぐでアウトコースを正確に突ける投手は、当時のパにもいなかった。しかも左腕だから、右打者の僕には余計に遠く感じた」(前同)

 実はこの球宴で、江夏は秘めた野望を抱いていた。

「球宴前に、親しい記者から“せっかく選ばれたんだから、ファンを喜ばせろよ。9者連続三振は誰も成し遂げていないぞ”とハッパをかけられた。それを聞き、“3イニングで9個のアウトを全部、三振で取ろう”と決意したそうです」(スポーツ紙デスク)

 持ち球はストレートとカーブだけ。にもかかわらず、記録を狙う江夏の“本気”は、並みいるパの強打者たちのバットに、ことごく空を切らせた。

「初っ端の僕なんかは気楽なもんだったけど、3回ともなると、ベンチでも“どうにかせんと”って空気にはなったよね。ただ、“三振だけはするまい”と思っていても、自分のスタイルを捨ててまで当てにいく選手は誰一人いなかった。あくまでも真っ向勝負。そこが今とは違うよね」(前出の有藤氏)

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