■オールスターには宝物が落ちている
その2年後、96年第2戦では、幻の「ピッチャー・イチローvsバッター・松井」が大きな話題を呼んだ。パの仰木彬監督が9回二死の場面で迎えた松井の打席で、ライトを守るイチローをマウンドに送る。その一部始終を見ていた藪氏が続ける。
「イチローが投球練習を始めたのを見て、僕らも“おーっ”と盛り上がった。でも、野村(克也全セ監督)さんが、そこで“ケガをさせたら、どう責任取るんだ”と言い出して。今でこそ大谷翔平という前例もできましたが、当時は、そういう発想自体がまだなかったんでしょうね。ベンチ全体も、あの瞬間だけはシーンとなっていましたよ」
この前日の福岡ドームでは、ダイエーを戦力外で追われ、近鉄で再起したカズ山本の劇的な代打逆転弾も飛び出している。打たれた投手は、他ならぬ藪氏だ。
「あの日は試合前の選手紹介のときから、カズさんは気持ちが乗っていてね。打席に入るまでのルーティンも、やたら長くて、“はよ入れよ”と思っていたら、初球を見事に運ばれた。お立ち台では“まぐれです”なんて言っていましたけど、あれは絶対に狙っていたはず(笑)。打たれた瞬間、“そういうことかよ!”と思ったのは、今でもよく覚えていますしね」
お祭り気分の中にも、ピリッとした勝負の醍醐味が隠されているのが、球宴対決の魅力だ。
「昔はオールスターの試合が終わって飲みに行く、みたいなことはなかったからね。グラウンドには“宝物”が落ちている。それを、いかにして拾い集めて、自分のものにするか。オールスター戦はそういうアンテナを常に張り巡らせる場所だったよ」(有藤氏)
名勝負が待ち受ける、最高峰の球宴だ。