■落合が見抜いた巨人の油断!

 その橋上氏は、のちに野村監督の右腕として創成期の楽天の強化に尽力した。2013年には巨人の戦略コーチとして、その楽天と日本シリーズで対決した。

「あのときは分析の大半を田中将大一人に費やして、美馬学ら他の投手に対するデータ収集をおろそかにしてしまった。戦略担当として、そこは大いに反省しました。第7戦で敗れた翌日、東京に戻る新幹線で偶然、隣の席になった落合博満さんからも、“おまえ、油断しすぎだよ。田中ばっかりに目が行きすぎてたんだろ”ってズバリ言われてしまいましたしね(笑)」(同)

 このときの巨人は、第6戦でシーズン無敗の田中に唯一の黒星もつけたが、第7戦では田中自身の志願による連続登板に敗北した。第6戦のベンチ裏の様子を、橋上氏が述懐する。

「選手たちも“絶対に土をつけてやる”と臨んだ試合でしたから、盛り上がりようは前年日本一になったとき以上のものがありました。ただ裏を返せば、そこで彼らのメンツは保たれた。第7戦での連投も想定はしていましたが、その時点でもはや精根は尽きて“燃え尽き症候群”のようになっていましたしね。少なくとも、負けて悔しいといった雰囲気は、すでになかったと思います」

 一方、橋上氏の後悔を言い当てた落合氏といえば、中日監督時代、日本ハムとの対戦となった07年の日本シリーズ。8回まで完全投球の山井大介に替えて、岩瀬仁紀を送った“オレ竜”采配は、今なお語り草だ。

「試合中盤で爪を割っていた山井は満身創痍。降板も実は本人からの申し出でした。当の落合監督にとっても、半世紀以上ぶりの日本一が懸かる1点差ゲームでの苦渋の決断でした。後の自著では“プロOBの一人としては、完全試合が見たかった”と率直に綴っています」(専門誌記者)

 最後に、巨人の惨敗ぶりが話題となった昨年のシリーズを振り返りたい。ソフトバンクの王会長は、王手をかけた第4戦を前に、こう言ったという。

「いかにも非力な吉川尚輝と若林晃弘の1、2番をして、“巨人のあれは何だ。あれでいいのか”と心配顔だったそうです。如実に現れたセ・パのレベルの違いを前にして、巨人OBとしては黙っていられなかったんでしょう」(ベテラン記者)

 今年こそセ・リーグの逆襲はあるか。球史に残る名勝負以上の熱いドラマに期待したい。

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