がんになったら、お医者さんの言うことを聞いて、養生に努めよう――そう思っている人も多いだろうが、これが大きな間違いなのだという。『健康増進クリニック』(東京都千代田区)の水上治院長(医学博士)が、こうアドバイスする。「がんの治療は、最初の選択が肝心です。手術で失った臓器は、決して元に戻ることはないですからね。ところが、日本の治療は外科医主導で、とにかく切りたがる傾向が強い。決して医者の言いなりにならず、患者自身も勉強して、さまざまな治療法について長所も短所も知っておくことが重要です」

 水上氏のクリニックの9割は、がん患者。水上氏はこれまで1万人以上も診てきたという。『日本一わかりやすいがんの教科書』(PHP研究)、『「がん」にならない方法を教えてください!』(文響社)などの著書もあり、患者側に立つ医療には定評がある。そんな水上氏が、「医者の言いなりになるな」と言うのだから驚くばかりだ。実際に、医者任せにして手術を受け、後悔の念にかられているという、70歳のAさんに話を聞いた。

「昨年、医者に勧められるまま前立腺がん手術を受けた結果、後遺症で尿漏れ、それにEDになってしまいました。今は、“他の選択肢もあったのでは”と後悔しています……」

 水上氏がこう推測する。「担当医は再発や転移のリスクを考え、それが最良の方法と、手術したのでしょう。しかし、医学データ上はそうだとしても、実際の医療では、患者の価値観が尊重されるべきでした」

 まして、前立腺がんに関しては、前立腺を残し、術後の合併症も少ない放射線治療は手術とほぼ変わらない生存率を誇っているのだ。「日本の前立腺がんの治療では全摘手術を受ける人が多いのですが、欧米では放射線治療を受ける人が多い。これは、我が国においては放射線科医や、抗がん剤の専門家である腫瘍内科医が非常に不足しているから。国はその養成を急ぐべきです」(水上氏)

 さらには、こんな話も。「町の開業医ががんらしきものを発見すると、病院の紹介状を書く先はたいてい外科。そうすると外科の先生が治療法を決めることになり、必然的に“手術で取ってしまおう”となります。手術となれば100万円単位の収入となる。病院経営の面からも手術が選ばれやすいのです」(同)

 それでは、医学知識のない一般の市民は、どうしたらよいのか。「手術を勧められたら、放射線医にセカンドオピニオンをもらう。逆に放射線を勧められたら、外科医にセカンドオピニオンをもらう。そして、初診とセカンドの意見があまりに違っていたら、サードオピニオンをもらうことです」(同) さまざまな医師の話を聞くことで、選択肢も広がる。

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