人生そのものであるバラエティ「リアリティーショー」で輝く指原莉乃 平成アイドル水滸伝 第2回 モーニング娘。と指原莉乃の巻~バラエティと平成アイドル~【後編】の画像
CDシングル『恋するフォーチュンクッキー』TypeA(初回限定盤)

平成アイドル水滸伝~宮沢りえから欅坂46まで

第2回 モーニング娘。と指原莉乃の巻~バラエティと平成アイドル~【後編】

「キャラ」から「一芸」へ

前編の続き)ただキャラで勝負する場合には、結局保田圭に対する石橋貴明のように際立ったツッコミ役がいないと上手くいかない。だからお笑い芸人によるいじりに任せるフォーマットは、アイドルがバラエティの世界を独立独歩で生き抜くには自ずと限界がある。その壁を突破するには、自己プロデュースできるようになるしかない。

 思うに、そこで登場したのが「一芸アイドル」だった。

 平成に入って大学のAO入試が盛んになり、そのなかで「一芸入試」が注目を浴びた。スポーツや芸能活動、なかにはけん玉のような趣味の延長まで、勉学以外の実績を自己アピールして入試が受けられるようになった。

 平成女性アイドルにも似たような状況がある。まずアイドル歌手としての基礎学力にあたる歌とダンスがある。だがそれ以外に「一芸」的なバラエティ能力も評価の対象になる。なかには歌やダンスが少々怪しくてもバラエティで弾けて人気者になるアイドルもいる。ここ10年くらいの間に、そんな「一芸アイドル」が目立つようになった。

 バラエティの「一芸」と言っても色々ある。一発芸や特技、クイズでの学力アピールもあるが、特に増えてきたのはオタク趣味を生かすパターンだ。たとえば鉄オタの松井玲奈や廣田あいか、アニオタの生駒里奈などはその部類に入る。

 同じオタクでも、アイドルオタクというケースもある。中川翔子が先駆け的存在だが、指原莉乃もそうだ。芸能界入り前からハロー!プロジェクトのファンだったことで知られる指原だが、アイドルイベント「ゆび祭り」を開催したり、最近は『ラストアイドル』(テレビ朝日系)で新人アイドルグループをプロデュースするなど、オタク趣味を存分に仕事に生かしている。

「一芸アイドル」の頂点、指原莉乃

 だがなんと言っても指原莉乃の最大の「一芸」は、リアリティショーのプレーヤーとしての才である。それで彼女は、「一芸アイドル」時代の頂点に立った。

 指原莉乃は、アイドルとしては異能のひとだ。たとえば、バラエティ番組でお笑い芸人からいじられるポジションのときは、それほど傑出した感じは受けない。もちろん場の空気を壊さず如才なくリアクションするという点でも、十分に有能ではある。だが彼女の場合むしろ、場をざわつかせる才能のほうが圧倒的に優れているように思える。その才能発揮の絶好の場がリアリティショーなのだ。

 リアリティショーとは、ドキュメンタリータッチの演出で感動やドラマ性を強調するバラエティのジャンルで、ドキュメントバラエティとも言う。日本では平成初頭の『進め!電波少年』(日本テレビ系)くらいから広まった。

 ただ、指原莉乃はそうした番組でブレークしたわけではない。所属するAKBグループ自体が、リアリティショーのフォーマットをベースにしたアイドル、いわば「リアリティアイドル」だったのだ。そのなかで彼女は、水を得た魚になった。

 いうまでもなく新曲のセンターを決めるイベント「AKB選抜総選挙」こそは、AKB的リアリティショーの真髄だ。指原莉乃は2013年に初の1位になった際のスピーチで、「わたしがセンターになったらAKBが壊れるとか言われてるけど、絶対にAKBは壊しません」と力強く宣言したかと思うと、「(自分がセンターなので)変な曲にされたりしそう。(大島)優子ちゃん、助けて」とヘタレ感丸出しの言葉で笑いを誘っていた。シリアスとコミカルのあいだをハラハラさせながら泳ぎ切ってみせるリアリティアイドル・指原莉乃の真骨頂である。

 本来「一芸」はあくまで飛び道具なので、たとえトップアイドルグループのセンターに立つことがあっても、異端的存在であることは変わらない。指原莉乃が発散する“一匹狼”的雰囲気は、そこから来るものだろう。

 だが彼女の「一芸」は、ことAKBグループに関してはオールマイティなものだった。元ファンの男性との交際を報じられたピンチの場面でさえもリアリティショーになった。そして気づいたときには、指原莉乃は無敵な存在になっていた。「一芸アイドル」のままでAKBグループのてっぺんまで上り詰めたのである。

 この“さっしー版下剋上”の後に来るのは、自己プロデュース力の競い合いの時代だ。ネットの世界は、その格好の主戦場でもある。AKBグループのメンバーが個人生配信を行うSHOWROOMなどは、それぞれが得意の武器や戦略でアピールするそれこそ水滸伝さながらの世界だ。実際、この配信でめきめき頭角を現し、現在バラエティへの進出も目覚ましいNGT48の「りか姫」こと中井りかには、多少の炎上などものともせぬ強者(つわもの)感がある。

 ソロアイドル受難の時代の終わりは、実はこんなところでもう秘かに始まっているのかもしれない。

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