平成アイドル水滸伝〜宮沢りえから欅坂46まで〜
序の巻〜平成アイドルという星を追って〜【後編】
アイドル版ビッグバン
(前編の続き)この「歌姫問題」とも関わってくるが、平成とは「アイドル=歌手」ではなくなった時代でもある。それどころかアイドルの世界は一気に開放され、その勢力範囲は分野を問わず拡大し続けた。平成の初め頃、日本政府がイギリスにならって金融市場制度の改革を目指した「日本版ビッグバン」というのがあったが、いわば“アイドル版ビッグバン”が起こったのが平成にほかならない。
パイオニア的存在は、なんと言っても宮沢りえである。
CM「三井のリハウス」の初代リハウスガールでブレークしたのが1987年の14歳。その後映画・ドラマで女優デビュー、さらに小室哲哉の曲で歌手デビューし、『紅白』出演も果たした。またつい先ごろ久々に復活して話題にもなったが、とんねるずの番組ではコントの才を発揮、そのなかのセリフ「ざけんなよ!」は流行語にもなった。さらには「ふんどしルック」のカレンダーで話題をさらったかと思うと、18歳で出したヌード写真集『Santa Fe』がミリオンセラーと、風のように時代を駆け抜けた。
その姿はまさに、平成の女性アイドル像を完璧に先取りした「ひとりアイドルビッグバン」だった。CM、映画、ドラマ、歌、バラエティ、グラビア…。アイドルが生まれるジャンルが歌だけではないことをこれでもかと言うほどに知らしめた。その後宮沢りえとともに「3M」と並び称された牧瀬里穂や観月ありさ、そしてポケベルCMの広末涼子と世はCMアイドルの時代に突入していくが、なぜCMだったのかという話は次回ですることにしよう。
“アイドル版ビッグバン”現象は、当然芸能界という枠を超えて広がり続けた。芸能の分野に近いところでは「フジテレビ3人娘」(河野景子、八木亜希子、有賀さつき)が先陣を切った女子アナブームがあった。平成に入り、「女子アナ=アイドル」の図式はすっかり定着。最近では、元モーニング娘。の紺野あさ美や元乃木坂46の市來玲奈など元アイドルが局アナになる逆転現象が起こっているのはご存知の通りだ。
テレビの影響という点では、女子スポーツ選手もそうだ。卓球の福原愛やフィギュアスケートの浅田真央は、テレビを通じて幼い頃から成長する姿をみんなが見てきた。明石家さんまとの卓球対決でポイントを取られるとみるみるうちに顔が歪みはじめ、号泣してしまう「泣き虫愛ちゃん」の姿は、ある世代以上の人ならみな覚えているだろう。そこから苦労と努力の末オリンピックでメダルを獲得するリアルストーリーには、フィクションではとうてい得られない魅力がある。
いまや芸能界とそれ以外の壁は完全に取り払われたと言っていい。特に最近はネットから誰でも発信できる世の中になり、いたるところでアイドルは発見される。一時期話題になった「かわいすぎる海女さん」の人気に火がついたのも、YouTubeに投稿された動画からだった。
そう考えると、平成ならではのAKB48をはじめとしたアイドル歌手グループの大人数化も“アイドル版ビッグバン”の一環かもしれない。もちろん理由はほかにもあるだろうが、メンバーの得意分野やキャラクターの多様化という点で、少なくとも「大人数グループ」が“アイドル版ビッグバン”の箱庭的ミニチュアに見えるのは確かだ。そのあたりもこの連載でおいおい明らかにしていきたいテーマのひとつである。
「星」たちの生き様を追いかけて
とにかく、出自もさまざまなら個性もそれぞれ異なる存在が「アイドル」の旗のもとに集結した時代。それが平成だった。彼女たちは、水滸伝の豪傑さながらそれぞれの得意技や才覚だけを武器に闘った。
『水滸伝』の物語は、108の星が現世に解き放たれるところから始まる。言うまでもなくその生まれ変わりが、梁山泊に集うことになる108人の豪傑である。だから彼らは一人ひとり「天魁星」のように異名を持つ。次回からはそれにならい、平成の世に解き放たれ、そして集ったアイドルという「星」たちの生き様をとことん追いかけていきたい。
平成アイドル水滸伝
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