平成アイドル水滸伝〜宮沢りえから欅坂46まで〜
第1回 宮沢りえと広末涼子の巻 〜CMと平成アイドル〜【前編】
CMとアイドルのいま
“旬”の女性アイドルを知るにはCMが一番だ。CMには時代の風がストレートに表れる。
よくニュースにもなる「CM女王」。昨年2017年のランキングだと、1位こそローラだが、2位以下は広瀬すず、有村架純、綾瀬はるか、上戸彩、高畑充希、武井咲、波瑠、吉岡里帆、新垣結衣と女優の名がこれでもかとばかりにずらりと並ぶ。しかも広瀬、有村、高畑、波瑠、吉岡、新垣といったところは10代から20代の若手。数年前にはここに大島優子、前田敦子、渡辺麻友らAKB勢が大挙名を連ねていた。いま世は若手女優全盛だ(ニホンモニター調べ)。
そういうわけで、今回はCMと女優の関係、そこから見える平成アイドルの話である。主役は宮沢りえと広末涼子、この二人だ。
ドラマ仕立てCMから生まれるアイドル
クラスの前で「白鳥麗子です。」と自己紹介をする少女。彼女はバイオリンを奏で、駅のホームで文庫本を手にする。平成になる少し前の1987年に放送されたこのCM「三井のリハウス」から宮沢りえの快進撃は始まった。「白鳥麗子」というちょっと歯の浮くような役名も、当時14歳の彼女の口から発せられると違和感ゼロだった。それだけ宮沢りえの美少女性は際立っていた。
ドラマ仕立ての演出も新鮮だった。転校時は緊張気味だった少女が学校の廊下でふざけて友人と笑い合う場面は、学校に馴染んだ時間の経過を一瞬でわからせる。15秒のなかに私たちはドラマを読み取り、引き込まれた。
それまでCMのアイドルは、ほとんどがマスコット扱いだった。最後にチョコを一口おいしそうに食べるとか、キャッチフレーズ的なセリフを一言だけ。アイドルとは歌手であって、演技は本業ではなかったからである。
宮沢りえは、そんな常識を覆した。CMはすでに人気のアイドルが出るものではなく、アイドルを生み出すものになった。アイドルがあってCMがあるのではない。CMがあってアイドルがある。その点CMのドラマ化は、アイドルを輝かせる必然的な選択だった。
そして宮沢りえは、当然女優への道を進んだ。1988年角川映画『ぼくらの7日間戦争』に主演、テレビドラマデビューも果たした。連ドラ初主演作となった1989年の『青春オーロラ・スピン スワンの涙』(フジテレビ系)はシンクロナイズドスイミングを題材にしたドラマで水着姿のシーンも多く、彼女の抜群のスタイルを生かしたものだった。
歌手活動は1989年から。小室哲哉プロデュースの『ドリームラッシュ』でデビュー、1990年には『Game』で『紅白』にも出場した。
このときの演出がすごかった。紅組のトップバッターだった彼女は、なんとNHKホールの屋上に置かれたバスタブに入って歌ったのである。まず当時『紅白』での中継自体が珍しかった。そのうえ入浴スタイルで歌うなど前代未聞、誰もが呆気にとられた。
ただ、いま振り返ってみると、あれもCMの一種、「宮沢りえ」という商品のイメージビデオだったのだろう。だから歌手としてみると違和感があるが、CM時代のアイドルと考えれば納得できる。歌はあくまで余技であった。
サプライズの天才・宮沢りえ
このように彼女は、私たちをアッと驚かせる“サプライズの天才”であった。少女ならではとも少女らしからぬとも言える大胆さで、世を魅了した。
サプライズの歴史は16歳のときの「ふんどしカレンダー」から始まる。1989年のカレンダーのなかの一枚が、よく見るとふんどし姿。少し斜に構えた後ろ姿から顔だけがこちらを向いている鮮烈なショットを覚えているひとは多いはずだ。
当時を知らないひとも、ちょっと想像してもらえばその衝撃はわかるだろう。歌手である昭和アイドルにとって基本グラビアはおまけにすぎず、水着姿がせいぜいだった。ところが平成になったとたん、宮沢りえはいきなりふんどし姿になった。「白鳥麗子」とのふり幅もあってそのサプライズ効果は抜群だった。
とは言え、それも前フリにすぎなかった。18歳になった1991年、今度は篠山紀信撮影によるヌード写真集『Santa Fe』を発売。155万部という記録的な売り上げになった。撮影時はまだ17歳だったという噂もあって、だいぶ後のことになるが「児童ポルノ」に該当するかどうかが国会でも論議になった。法解釈はさておき、それだけぎりぎりのセンセーショナルなものであったことは間違いない。
これだけでも十分すぎるほどだが、彼女のサプライズはそこで終わらなかった。
1992年11月、宮沢りえは、当時「若貴ブーム」で人気絶頂の力士・貴花田(現・貴乃花親方)との婚約を発表。19歳と22歳のビッグカップル誕生は「世紀の結婚」として話題をさらった。ところがそれからまだ間もない翌1993年1月に、二人は突然破局にいたる。この急展開にも世間は驚いた。
だが宮沢りえの真骨頂は、そこからの復活劇にある。1994年に出演した缶チューハイのCM。見晴らしの良いビルの屋上でリラックスした笑顔の彼女の第一声が、「すったもんだがありました」。そう言ってぐいっと缶チューハイを美味しそうに飲む。チューハイにりんごのすりおろしたものが入っていることにかけてのセリフだが、見る方はあの婚約破局騒動のことかと思わずニヤリとなる。
ドラマ仕立てのCMで世に知られるようになった少女が、今度はCMのなかで色々あった自分の人生をまるでドラマのように完結させてみせたのである。「すったもんだがありました」は、その年の流行語大賞にも選ばれた。鮮やかと言うしかない。
この自分をパロディ化する感じは、とてもバブル的だ。バブル最盛期にブレークした宮沢りえの醸し出す独特の軽さは、時代が育てた面があるだろう。とんねるずとのコントもそうだ。学園コントに出演した彼女は、CMそのまま「白鳥麗子」で登場、なのに「ざけんなよ」と毒づいて清純派のイメージを自らさっと壊してみせた。(後編へ続く)
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