平成アイドル水滸伝~宮沢りえから欅坂46まで
第2回 モーニング娘。と指原莉乃の巻~バラエティと平成アイドル~【前編】
バラエティは必須科目
ソロアイドル受難の時代、とはよく耳にする話である。確かにAKBグループや坂道シリーズに始まって、いま知られているアイドルと言えばグループばかりだ。
だが、ソロでの活躍が目立つ分野もある。バラエティである。しかも、ソロでの出演だけでなく、グループの冠バラエティ番組も数多い。ドラマでもグループ全員出演という場合がなくはないが、レアケースだ。そう考えれば、バラエティは、アイドルにとっていまや避けて通れない必須科目になっている。
では、平成女性アイドルにとってバラエティとはどのようなものなのだろうか? そこにも、昭和とは違った平成ならではのアイドルの生き様があるのだろうか?
そういうわけで、今回は平成女性アイドルとバラエティをテーマに話を進めてみたい。メインになるのはモーニング娘。と指原莉乃である。
「バラドル」と「バラエティ班」
昭和にもバラエティできらりと光るアイドルはいた。昭和の終わりごろに登場した松本明子、井森美幸、森口博子、山瀬まみなど、そうした女性アイドルはバラエティアイドル、略して「バラドル」と呼ばれるようになった。
最近で言えば、ベッキーや小島瑠璃子はこのバラドルの系譜である。ただ、「バラドル」という表現はあまり使われなくなった。アイドルがバラエティに出演することがごく当たり前の時代になったからだろう。
だが昭和のバラドルは、いまのバラドルの多くとは違う面もあった。それは元々歌手だったことである。いま名前を挙げた4人は、いずれもソロのアイドル歌手としてデビューしたがなかなかコンスタントにはヒット曲に恵まれず、バラエティに活路を求めたパターンだ。当時、松本明子や森口博子が美空ひばりや工藤静香の達者な歌まねでものまね番組のチャンピオンになったのには、そんな背景がある。
つまり、バラドルの出発点には歌手としての挫折があった。だから、昭和の終わりに登場したバラドルは、現在のAKBグループや坂道シリーズのバラエティ出演と直接にはつながらない。平成のアイドルグループのメンバーにとって、歌手であることとバラエティ出演とは対立するものでもなければ、どちらかを選ぶものでもないからである。
たとえば、乃木坂46であれば、秋元真夏や高山一実のように「バラエティ班」と称されるメンバーが何人かいて、ソロ出演を重ねながら知名度を上げていく。ただめでたくそうなったとしても、歌手としての活動から離れていくわけではない。「班」という言い方自体が、グループの枠組みを前提にしたものだ。逆にもしグループを離れてしまえば、昭和の「バラドル」のように「アイドル歌手がバラエティ!?」という意外性の効果もなくなったいま、“汚れ”もいとわずとにかく自分をさらけ出してやり通すしかない。アイドリング!!!在籍中に売れっ子になり、その後ソロになった菊地亜美などはそうだろう。ただそれはやはり、いばらの道でもある。
モーニング娘。保田圭が見つけた“第三の道”
歌手であることをベースにしつつ、そこにバラエティ班のメンバーもいる。そんな平成アイドルグループの常識をつくったのが、モーニング娘。である。
きっかけは、TBSの『うたばん』だった。フジテレビの『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』と並んで平成の音楽番組の新しいトレンドを生んだ番組である。前者が石橋貴明と中居正広、後者がダウンタウンをMCに配し、ともにフリートーク中心のバラエティ色を前面に出したスタイルで人気番組になった。
ただ、女性アイドルグループの扱いという点では、『うたばん』に一日の長があったと思う。理由は簡単で、昭和時代オールナイターズやおニャン子クラブを相手にその方面を開拓した当のパイオニアが石橋貴明だったからである。
平成に入り、そのフォーマットに見事にハマったのがモーニング娘。だった。
たとえば、飯田圭織のあだ名「ジョンソン」の由来がそうだ。飯田には「カオリン」というオーソドックスな愛称があった。ところが『うたばん』のある回、メンバーの名前を覚えているかと問い詰められた石橋貴明が途中から巨人の選手名を適当に言い始め、たまたま飯田圭織の番で出たのが助っ人外国人選手ジョンソンの名前だった。もちろんなんの必然性もない。だがこれがウケて、その後ずっと『うたばん』のなかでは当の本人もよくわからないまま“飯田=ジョンソン”になってしまった。
強引の極み、意味不明としか言いようがない。ただ、「キャラ」とはそういうものだとも言える。キャラはそのひとの性格や特徴であり、うまく誰かにツッコんでもらわないと面白くならない。つまり、基本的に受け身のものだ。この「ジョンソン」の場合は本人の特徴とはなんの関係もないのできわめて特殊な例だが、それだけにキャラが誰かにいじられてなんぼのものであることがよく分かる。
そんな『うたばん』の最大の「作品」が、保田圭だった。プッチモニのメンバーとして出演したのを機に、保田は石橋貴明からこれでもかといじられるようになった。そして最後は「保田大明神」として奉られるという、これぞキャラ化の究極のような結末になった。
お笑い芸人がアイドルグループをいじる手法は、こうして『うたばん』によって確立された。AKBグループや坂道シリーズの冠番組では判で押したようにお笑い芸人がMCになり、さまざまな企画やミッションで奮闘するメンバーを面白おかしくいじるのがお決まりだ。
そのパターンで記憶に残るひとつに、アイドリング!!!の冠番組だった『アイドリング!!!』がある。バカリズムがMCのこの番組は、地上波ではなくCSでの放送だった。その分企画にも過激で手の込んだものが多く、アイドリング!!!のメンバーはいじり倒された。先述した菊地亜美や最近活躍の目立つ朝日奈央もこの番組で腕を磨いたくちだ。だがいかんせん、そうなればなるほど歌手としての存在感は薄らいだ。アイドルグループの冠バラエティ番組の難しさである。
このアイドリング!!!に限らず、歌とバラエティのバランスをどう取るかは平成の女性アイドルグループに常につきまとう課題だ。
モーニング娘。の場合は、つんく♂という一時代を築いた歌手兼プロデューサーの存在もあり、歌手であることへのこだわりが最初からひと際高かった。むしろ『うたばん』で保田圭があれほど脚光を浴びたのは想定外のことだったに違いない。
保田圭を激しくいじる一方、石橋貴明がいつもデレデレになるほど贔屓にしていたのが安倍なつみと後藤真希、ともにセンターを務めた二人である。ただしタイプは対照的で、安倍が「清純派」、後藤が「ギャル」だった。
前回、広末涼子が「清純派」と「ギャル」のあいだで揺れ動いた話をしたが、さかのぼれば「清純派」と「ギャル」は、「ぶりっ子」と「ツッパリ」という昭和アイドルの二大勢力の系譜でもある。
昭和のアイドル界は、米ソならぬこの二大勢力による“冷戦体制”の構図を基本にしていた。だがここで保田圭は、どちらでもない「キャラ」という“第三の道”を見つけた。いま思えばそれは、アイドルの“ポスト冷戦時代”を切り開くエポックメーキングな出来事だった。
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