生き続ける「昭和」、そして箱推し
こういうところから見ても、ももクロにはどことなく「昭和」の香りがある。
「昭和」、特に戦後は頑張ることが当たり前とされた時代だった。正確には、頑張らざるを得なかったと言うべきか。敗戦の焼け跡からのスタートは、余分なことを考える暇などなく自然に「全力」になれた時代だっただろう。そして日本は復興し、世界で有数の豊かな国にもなった。
「平成」の日本人にも、そんな「昭和」のDNAは受け継がれている。頑張ることが大切なことは、いまも変わりない。ただ、時代は移り変わる。ある程度の豊かな暮らしはすでにあり、それゆえ逆に脇目もふらず頑張ること、「全力」になることはかつてほど簡単ではなくなっている。いくら頑張っても未来がこれ以上よくなることはあるのだろうか? そんな屈折した思いがつい頭に浮かんでブレーキをかける。「昭和」は遠くなったのだ。
そこにももクロは登場した。そんな時代に、いや本当の「全力」とはこんなに魅力的なものだ、と思い出させてくれるように。それはまさに「昭和」が突然息を吹き返したような瞬間だった。「昭和」は死んだわけではなく、生き続けていたのだ。
もちろん、ももクロは「昭和」のアイドルの単なる焼き直しではない。
前回、広瀬すずの『ちはやふる』を例に「部活女子もの」の人気にふれた。そこでは昭和時代に流行した「スポ根」的な努力と根性以上に、平成ならではの仲間との信頼関係が重要なポイントになっていた。仲間がいるからこそ頑張れる、というメッセージが全編を貫くものとしてあった。そしてその仲間とは、いま一緒にいるひとたちだけではない。過去に濃密な時間を共有したひともまたかけがえのない仲間であった。
それはももクロにもそのまま当てはまる。2012年、代々木公園で路上ライブをやっていた頃からの夢であった『NHK紅白歌合戦』への初出場を彼女たちはついに果たした。だがそのとき同じ目標に向かって頑張っていたメンバーの早見あかりは脱退してすでにいなかった。だが5人は、当日披露した『行くぜ!怪盗少女』を、歌詞に彼女の名前が入っている6人バージョンで歌った。
この有名なエピソードを思い出すと、「箱推し」とはももクロのためにある言葉であるかのように感じてしまう。もちろん他のグループにも箱推しのファンはたくさんいるのだが、それでもそう思えてしまう。それはやはり、ももクロのパフォーマンスのなかに、“ひとり”ではなく“みんな”で頑張る「平成」的スピリットが息づいているからなのだろう。
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